2006年度・授業計画

<内容>

(1)京都大学文学研究科・キリスト教学
(2)大谷大学
(3)奈良女子大学
(4)天理大学



(1)京都大学文学研究科・キリスト教学

A.特殊講義(金2)
  自然の諸問題から公共性へ――キリスト教思想の視点から――

  
  これまで本特殊講義では、過去4年間にわたって、「キリスト教思想における自然の諸問題」を取り上げてきたが、今年度は、「多元性」や「公共性」の問題へ向けた議論の展開が試みられる。これは、次の段階で、「宗教的多元性と公共性」というテーマを本格的に論じるための導入として位置付けられるものである。また、こうした問題の展開は、これまでの「宗教と科学」関係論をめぐる考察から生じたものであると同時に、現代のキリスト教思想の動向の中に位置付けることも可能である。具体的には、次のような問題が扱われる。

  1.現代宗教学の基礎論についての体系的な考察。これには、宗教の概念規
    定、宗教批判、宗教的多元性という三つの問題群が含まれる。
  2.現代の「宗教の神学」をめぐる代表的な立場について概観し、その論点
     と問題点を整理する。
  3.宗教間対話との関連性という視点から、宗教的多元性とコミュニケーシ
    ョン論・公共性論との関わりを論じ、「宗教と科学」関係論との問題構
    造における並行性を解明する。


B.演習
1.キリスト教思想研究の現在(月3)


 
本演習は、現代のキリスト教思想あるいはキリスト教思想研究の動向について共同研究することを目指している。キリスト教思想そしてその研究は、現在複雑に細分化されいわば混沌とした様相を呈しており、キリスト教思想研究に専門に携わる研究者にとっても、独力では見通しのつかない状況にある。こうした思想状況において、注目すべき主要な動向を明らかにし、その認識を共有することによって、新しいキリスト教思想研究の方向付けを行うということが、本演習の最終目標になる。
 そのために、演習参加メンバーには、それぞれの専門の研究領域における研究動向をレポートすることが求められる。具体的には、様々な思想家についての紹介的論評や新しい研究文献の書評・解説、あるいはメンバー各自が作成しつつある論文や学会発表についての紹介など、様々な形態の発表を中心に演習を進めたい。したがって、メンバーには積極的に討論に参加する態度が求められる。

2.日本・アジアのキリスト教−植村正久(2)−(月1)

 日本・アジアのキリスト教の歴史を振り返りつつ、その新しい思想的可能性を探ることは、日本におけるキリスト教思想研究にとって重要な意味を有している。本年度は、昨年度に引き続き、明治キリスト教を代表する思想家である植村正久の思想的意義について、彼の主要なテキストの読解を通して考察を行ってみたい。とくに注目したいのは、植村のキリスト教弁証家としての思想内容であるが、それによって、波多野精一の宗教哲学へと継承されるキリスト教思想の線の確認が期待される。日本のキリスト教的宗教哲学の初期の形成過程に注目したい。
  テキスト:植村正久 『真理一斑』(1884) 
   本年度は、第六章「神と人との関係を論じ併せて祈祷の理を説く」から、読み始める。
   後期は、他の植村の著作や、植村に関する研究論文を扱う予定である。

3.宗教と科学の関係論構築に向けて―プロセス神学(1)― (金5)

 「宗教と科学」の関係を現代世界の新しい問題連関において解明することは、現代キリスト教思想研究の中心的テーマの一つに他ならない。本年度は、こうしたキリスト教思想研究の動向を代表するプロセス神学について考察を深めてみたい。
 まず、プロセス神学の基本的な議論を確認するために、カブの『ポストモダニズムと公共政策』を取り上げる。とくに、前半の内容を中心にプロセス神学への導入を行いたい。その後に、グリフィンの『宗教と科学的自然主義』によって、プロセス神学の立場から「宗教と科学」関係論へと考察を進めてゆきたい。
プロセス神学は、ホワイトヘッドのプロセス哲学に依拠したキリスト教思想と考えることができるが、その理解には、ホワイトヘッドなどの関連思想を学ぶことが必要になる。この演習では、参加メンバーの実情に応じて、必要な文献を補足的に扱う予定である。また、参加メンバー自身の問題意識に基づく研究発表の機会も設けたい
  テキスト:
   John B. Cobb Jr., Postmodernism and Public Policy,
      State University of New York Press 2002
   David Ray Griffin, Religion and Scientific Naturalism,
       Sate University of New York Press 2000

(2)大谷大学
1.キリスト教学1(前期・金4)


 
テーマ:キリスト教の基本構造−現代宗教学からのアプローチ−

  序 論:時代の鏡としての宗教
  第1講:現代宗教学とは何か? 
  第2講:宗教現象モデルと宗教概念
  第3講:究極的関心としての信仰
  第4講:聖なるものの現象学
  第5講:宗教的象徴
  第6講:神話と民族−イスラエル民族−
  第7講:神話と精神の深層構造
  第8講:聖書の深層構造へ
  第9講:儀礼
 第10講:祭研究にむけて
 第11講:宗教の変容と世俗化 
 第12講:コスモロジーとしての呪術
 第13講:ファンダメンタリズムと民族主義

2.キリスト教学2(後期・金4)

 テーマ:キリスト教思想と現代−「宗教と科学」関係論をめぐって−

  序 論:宗教思想を学ぶ方法と意義
  第1講:聖書からキリスト教思想へ
  第2講:旧約聖書の創造論
  第3講:罪・悪の起源−エデン神話−
  第4講:知恵文学と自然理解
  第5講:イエスの福音と終末論
  第6講:古代キリスト教と無からの創造
  第7講:キリスト教の国教化とその意味
  第8講:中世のキリスト教世界と自然神学
  第9講:宗教改革の精神
 第10講:プロテスタンティズムと近代社会−万人祭司論の意味−
 第11講:科学革命と自然神学
 第12講:進化論論争とその影響
 第13講:生命倫理の諸問題(自殺・脳死)
 第14講:環境危機と宗教思想

(3)奈良女子大学
1.現代宗教学への招待(前期・水4)

 現代宗教学は百数十年前に経験科学の基礎の上に成立以来、多面的な発展をとげ、現在に至っている。この講義は、宗教とは現代人にとってどんな積極的な意味をもっているのか、という問いに対して、現代宗教学の立場から客観的に論じることを目標としている。本年度は、キリスト教を主な題材としつつ現代宗教学の方法論(宗教現象学、宗教社会学など)を体系的に示すと共に、神話論という視点から比較宗教学の基礎を明らかにしたい。

  序 論 新宗教論から比較宗教学へ
  第1講 現代宗教学とは何か−歴史と現状−
  第2講 広義と狭義の宗教概念
  第3講 宗教現象の基本構造
      1 究極的関心としての信仰
      2 聖と俗のダイナミズム
      3 宗教的象徴の世界
  第4講 比較宗教学の方法−通時と共時−
  第5講 神話論と宗教の比較
     1 神話論(1)−起源神話と歴史の中心−
     2 神話論(2)−アブラハムの宗教の比較−
     3 神話論(3)−デュメジルと構造主義−
     4 神話論(4)−日本神話−
      5 神話論(5)−仏教と縁起−
  第6講 儀礼と祭り
  試 験  

2.現代世界と宗教の意味(後期・水4)

 現代世界における宗教を論じる場合、グローバル化と多元化という二つの動向は決定的な意義を持っている。この講義では、キリスト教と東アジアという二つの対象を、歴史的な観点(グローバル化と多元化の歴史的な展開)から実証的に辿ることによって、現代世界における宗教の意味の問題へとアプローチしたい。その際に、とくに平和思想との関わりを焦点としつつ、現代の宗教思想の問題点が論じられる。

  序 論 宗教思想の意義 
  第1講 キリスト教とその歴史的展開
     1 聖書の世界
    2 古代地中海世界とキリスト教の国教化
    3 中世ヨーロッパとキリスト教
    4 宗教改革と近代精神 
    5 キリスト教の世界的展開
  第2講 東アジアの宗教状況と多元性
    1 古代日本と東アジア
    2 キリシタン時代の意義
    3 明治時代とキリスト教
     4 日本から世界へ−日本宗教の世界的意義−
  第3講 比較宗教思想−宗教的多元性と平和−
    1 戦争と平和
    2 内村鑑三の非戦論
    3 仏教と平和思想
    4 宗教間対話と平和  
  試 験  

(4)天理大学
  宗教史特殊講義II(2)−現代キリスト教の動き−(後期・水2)

 本講義の目標は、現代世界におけるキリスト教の動向を、思想史的観点から考察することである。そのために、とくにキリスト教と科学技術との関係という問題を中心に、できるだけ幅広い問題連関を視野に入れつつ、講義を進めたい。
 講義のポイントは、以下のようにまとめられる。
 1.現代キリスト教の思想的動向を理解するために、その前提となる宗教改革以降の近代
   キリスト教の歴史的展開について概観する。
 2.現代キリスト教の動向を体表的な学派あるいは神学者に注目することによって整理す
   る。ここから、キリスト教と科学技術の関係をめぐる代表的な見解の理解が試みられる。
 3.キリスト教と科学技術をめぐる倫理的諸問題(生命、環境、情報)について考察する。

  序 論 現代キリスト教思想研究に向けて−モダンとポスト・モダン−
  第1講 宗教改革と近代世界
    1 宗教改革の精神
    2 カルヴィニズムの自然神学
    3 民主主義・資本主義   
  第2講 科学革命とニュートン主義
  第3講 啓蒙思想と自由主義神学−近代聖書学の成立−
  第4講 進化論論争とファンダメンタリズム
  第5講 現代神学の諸動向   
     1 バルトと弁証法神学
     2 ブルトマンと非神話化 
     3 ティリッヒと解放の神学
     4 モルトマン、パネンベルク 
     5 プロセス神学 
     6 トランス、ポーキングホーン
     7 イェール学派とポストモダンの神学  
     8 アジア神学の可能性
  第6講 現代の倫理的諸問題とキリスト教−講義のまとめとして−
     1 生命  2 環境  3 情報  4 戦争と平和  5 対話と寛容

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