2007年度・授業計画

<内容>

(1)京都大学文学研究科・キリスト教学
(2)大谷大学
(3)奈良女子大学
(4)天理大学



(1)京都大学文学研究科・キリスト教学

A.特殊講義(金3) 
  キリスト教思想における社会・政治・民族(1)

  

 現代世界において宗教は民族とともに、しばしば深刻な対立要因の一つと見なされている。たとえば、キリスト教とイスラームとの対立、あるいは一神教と多神教との対立などといった話題は、日本でも広範に見られるものである。こうした対立図式自体が有する問題性は批判的な検討を要するものではあるが、キリスト教あるいはキリスト教思想がまさにこうした文脈で問われていること、またここに現代キリスト教思想の主要なテーマの一つがあることは否定できない。そこで、本特殊講義においても、こうした問題状況を念頭に置いて、とくに、近代/ポスト近代、アジア・東アジアといった視点に留意しつつ、キリスト教思想における社会、政治、民族に関わる諸問題を取り上げることにしたい。本年度扱われる問題は以下の通りである。

 1.現代キリスト教思想における問題状況の確認。この100年あまりのキリスト教神学の動向を、社会、政治、民族の問題との関わりで整理する。とくに、バルト、R・ニーバー、モルトマン、解放の神学。
2.現代の政治哲学から、とくに、正義と公共に関わる議論を取り上げ、キリスト教思想との関わりで考察する。アーレント、ハーバーマス、ロールズ、リクールなど。
3.ティリッヒの宗教社会主義論を中心に、ティリッヒの政治哲学・政治神学の内容(正義、力、権力、愛、大衆、民族、全体主義)と特質を解明し、キリスト教思想における社会理論の方向性を展望する。

B.演習
1.キリスト教思想研究の現在(月3)

 本演習は、現代のキリスト教思想あるいはキリスト教思想研究の動向について共同研究することを目指している。キリスト教思想そしてその研究は、現在複雑に細分化されいわば混沌とした様相を呈しており、キリスト教思想研究に専門に携わる研究者にとっても、独力では見通しのつかない状況にある。こうした思想状況において、注目すべき主要な動向を明らかにし、その認識を共有することによって、新しいキリスト教思想研究の方向付けを行うということが、本演習の最終目標になる。
 そのために、演習参加メンバーには、それぞれの専門の研究領域における研究
動向をレポートすることが求められる。具体的には、様々な思想家についての紹介的論評や新しい研究文献の書評・解説、あるいはメンバー各自が作成しつつある論文や学会発表についての紹介など、様々な形態の発表を中心に演習を進めたい。したがって、メンバーには積極的に討論に参加する態度が求められる。

2.日本・アジアのキリスト教-植村正久と高倉徳太郎-(月1)

 日本・アジアのキリスト教の歴史を振り返りつつ、その新しい思想的可能性を探ることは、日本におけるキリスト教思想研究にとって重要な意味を有している。本年度は、明治キリスト教を代表する思想家である植村正久とその後継者とも言われた高倉徳太郎の思想について、彼らの主要なテキストの読解を通して、考察を行ってみたい。前期は、日本論、国家論に関わるテキストを中心に植村正久の思想を検討し、また後期は、高倉徳太郎の主著『福音的基督教』(1927年)によって、近代日本におけるキリスト教思想研究の展開を辿りたい。こうした明治大正期のキリスト教思想の検討を通して、波多野精一の宗教哲学の位置づけが明らかになってくるものと思われる。日本のキリスト教的宗教哲学の初期の形成過程に注目したい。
 テキスト 
  前期:『植村正久著作集 第一巻』(新教出版社)
  後期:高倉徳太郎『福音的基督教』(『近代日本キリスト教名著選集 8』日本図書センター)
  合わせて、植村や高倉についての研究論文も扱う予定である。


3.宗教と科学の関係論構築に向けて―モルトマン(1)― (金2)

 「宗教と科学」の関係を現代世界の新しい問題連関において解明することは、現代キリスト教思想研究の中心的テーマの一つに他ならない。本年度は、こうしたキリスト教思想研究の動向について、現代ドイツを代表する神学者モルトマンのテキストによって、考察を深めてみたい。
 モルトマンは、『希望の進学』によって紹介されて以来、日本においてももっともよく知られた神学者の一人であり、彼の主要な著作は翻訳で読むことができる。前期のモルトマン神学については、フランクフルト学派との交流などに基づく社会変革に関わる実践的な視野を有する神学によって、また後期のモルトマンについては、エコロジーやフェミニズムなどの現代思想との交渉をも視野に入れた神学体系構想によって、高に評価を受けてきた。こうした神学思想のキーワードとして、「歴史」「終末論」を挙げることができるが、最近公刊され本年度取り上げられる論文集『科学と知恵』では、これまで十分に知られてこなかったモルトマンの諸論考が収録されることによって、新しいモルトマン解釈の可能性を示している。しかし、『科学と知恵』で扱われる「自然科学と神学との対話」という問題は、単にモルトマン解釈にとどまらず、この演習でこれまで試みられてきた「宗教と科学」の関係論構築にとっても重要な意味を持っている。
 本年度の演習では、この論文集に所収の論文を順番に読み進めてゆく予定であるが、モルトマン神学、あるいは現代キリスト教思想全般を理解するに必要となる関連事項について、随時説明を補足する予定である。また、参加メンバー自身の問題意識に基づく研究発表の機会も設けたい。

  テキスト:
   Jürgen Moltmann, Wissenschaft und Weisheit. Zum Gespräch zwischen Naturwissenschaft
      und Theologie
, Chr.Kaiser  2002.


C.キリスト教学講義(学部生向け・概論 木2)
   キリスト教学の主要問題について基本的な内容を概説する。


 前期の講義のテーマは、「宗教現象としてキリスト教」であり、キリスト教という宗教についての基礎的な内容を理解することをめざす。そのために、現代宗教学の方法に基づいて、キリスト教についての学問的な分析を行う。扱われるテーマは、信仰、聖なるもの、人格神、神話と神話論、儀礼(サクラメント)などである。
 後期のテーマは、「キリスト教思想史の諸問題」であり、今年度は、とくに聖書の思想について、主要な問題を扱う。たとえば、創造、罪、知恵、終末、神の国、家族、イエスの譬え、死と復活などである。こうした問題を扱う場合に、聖書学、キリスト教思想研究の分野でこれまでに蓄積されてきた研究成果が参照されることになるが、講義では、とくに現代的な諸問題(生命、環境、情報、平和)との関わりを念頭に説明が行われる。
 以上によって、キリスト教学とはどんな学問分野であり、どんな研究を行っているかについて、基本的な理解が可能になるものと思われる。



(2)大谷大学
1.キリスト教学1(前期・火2)

 テーマ: キリスト教の基本構造―現代宗教学からのアプローチ―

 序 論:新宗教論から比較宗教論へ
 第1講:現代宗教学とは何か-歴史と現状-
 第2講:広義と狭義の宗教概念
 第3講:究極的関心としての信仰
 第4講:聖と俗のダイナミズム
 第5講:宗教的象徴の世界
 第6講:宗教言語の諸問題-隠喩とイエスの譬え-
 第7講:比較宗教学の方法-通時と共時-
 第8講:神話論(1)-起源神話と歴史の中心-
 第9講:神話論(2)-アブラハムの宗教の比較-
 第10講:神話論(3)-デュメジルと構造主義-
 第11講:神話論(4)-日本神話-
 第12講:神話論(5)-仏教と縁起-
 第13講:儀礼と祭り

2.キリスト教学2(後期・火2)

 テーマ:キリスト教と東アジア―宗教の相互交流と平和思想―

 序 論:宗教思想の意義
 第1講:聖書の世界
 第2講:古代地中海世界とキリスト教の国教化
 第3講:中世ヨーロッパとキリスト教
 第4講:宗教改革と近代精神
 第5講:キリスト教の世界的展開
 第6講:古代日本のアジア
 第7講:キリシタン時代の意義
 第8講:明治時代とキリスト教
 第9講:日本から世界へ-日本宗教の世界的意義-
 第10講:戦争と平和
 第11講:内村鑑三の非戦論
 第12講:仏教と平和思想
 第13講:宗教間対話と平和


(3)奈良女子大学
1.現代宗教学への招待(前期・水4)

 現代宗教学は百数十年前に経験科学を基礎にして成立以来、多面的な発展をとげ、現在に至っている。本講義は、宗教とは現代人にとってどんな積極的な意味をもっているのか、という問いに対して、現代宗教学の立場から客観的に論じることを目標としている。本年度は、宗教現象としてのキリスト教の基本構造を現代宗教学の諸方法(宗教現象学、宗教社会学など)によって解明し、宗教心理学や神話論を含めた現代宗教学の全体像を明らかにしたい。

 序 論 新宗教論-現代日本の宗教状況-
 第1講 宗教学とは何か-意味の問いと宗教-
 第2講 宗教概念と宗教現象のモデル化
 第3講 宗教現象の基本構造
     1 信仰の現象学
    2 聖なるものの現象学
    3 宗教的象徴の世界
 第4講 イエスの譬話
 第5講 宗教言語と神話
    1 宗教言語と隠喩
    2 神話論(1)-起源神話-
    3 神話論(2)-デュメジルと構造主義-
 第6講 宗教心理学の諸問題
    1 フロイトと宗教
    2 ユングと宗教
    3 儀礼論
 試 験  

2.現代世界と宗教の意味(後期・水4)

 本講義は、現代世界と宗教との関わりを、その歴史的源泉に遡って思想史的な観点から考察することを目的とする。本年度は、宗教(とくにキリスト教)と科学技術との関係が、古代(聖書とギリシャ)から現代に至るまでどのように展開してきたのかを具体的事例に即して取り上げ、現代世界における宗教の存在意味について、議論を行ってみたい。とくに、現代の科学技術が引き起こした倫理的問題(生命、環境、情報など)に留意したい。

 序 論 宗教思想研究に向けて
 第1講 聖書から見た科学技術
   1  二つの創造論-創造の秩序と人間-
   2 エデン神話-破壊はどこから-
   3 知恵文学と科学
   4 歴史と終末論
 第2講 古代世界とキリスト教
 第3講 中世科学とイスラーム
 第4講 宗教改革と近代科学  
 第5講 科学革命の世紀
 第6講 ニュートンの自然哲学と宗教思想
 第7講 進化論の宗教的意義
 第8講 現代神学と科学
 第9講 現代世界と宗教
    1 生命倫理と宗教
    2 環境倫理と宗教
    3 情報化の意味
 試 験

(4)天理大学
  宗教史特殊講義II(1)-キリスト教の歴史と思想 -(前期・水2)

 本講義の目的は、キリスト教の歴史と思想について、その古代における形成期から中世における展開期までを概観し、キリスト教についての理解を深めることにある。そのために、現代のキリスト教研究の動向にも留意しつつ、多様な観点から議論を行ってみたい。
 講義のポイントは次のようにまとめられる。
 1.キリスト教の歴史と思想の基盤である聖書について、その特徴的な内容(創造、契約、
   堕罪、救済史、預言、知恵、終末、神の国、信仰、教会など)を論じる。
 2.古代におけるキリスト教会の形成(制度化と国教化)と基本教義(三位一体論、キリス
   ト論)を概観し、その現代的な意味を考える。
 3.中世キリスト教の思想を、自然神学と歴史神学を中心にまとめ、宗教改革への移行に
   ついて論じる。

  序論:キリスト教の歴史と思想についての研究-方法と意義-
  第1講:聖書の思想世界
       創造、契約、堕罪、救済史、預言、知恵、終末、神の国、信仰、教会
  第2講:古代キリスト教の形成
     1:イエスの宗教運動から原始教会へ  
     2:制度化と迫害
     3:国教化
     4:弁証論と神学の形成  
     5:正統と異端   
     6:三位一体論とキリスト論
     7:正戦論と政治神学
  第3講:中世キリスト教の展開
     1:中世キリスト教の力学 
     2:階層構造と変動  
     3:自然神学と歴史神学     
     4:宗教改革へ
     5:中世キリスト教の遺産

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