2008年度・授業計画

<内容>

(1)京都大学文学研究科・キリスト教学
(2)大谷大学
(3)奈良女子大学
(4)京都大学・全学共通科目



(1)京都大学文学研究科・キリスト教学

A.特殊講義(火3) 
  キリスト教思想における社会・政治・民族(2)

  

  現代世界において宗教は民族とともに、しばしば深刻な対立要因の一つと見なされている。たとえば、キリスト教とイスラームとの対立、あるいは一神教と多神教との対立などといった話題は、日本でも広範に見られるものである。こうした対立図式自体が有する問題性は批判的な検討を要するものではあるが、キリスト教あるいはキリスト教思想がまさにこうした文脈で問われていること、またここに現代キリスト教思想の主要なテーマの一つがあることは否定できない。そこで、本特殊講義においても、こうした問題状況を念頭に置いて、とくに、近代/ポスト近代、アジア・東アジアといった視点に留意しつつ、キリスト教思想における社会、政治、民族に関わる諸問題を取り上げることにしたい。本年度扱われる問題は以下の通りである。

1.ティリッヒの宗教社会主義論を中心に、ティリッヒの政治哲学・政治神学の内容(正義、力、権力、愛、大衆、民族、全体主義)と特質を解明し、キリスト教思想における社会理論の方向性を展望する。
2.19世紀から20世紀にかけてのキリスト教社会主義、宗教社会主義の動向を、神学思想史と政治思想史の二つの観点から考察する。
3.「解放」をめぐるキリスト教思想の諸潮流を、近代世界の文脈で検討する。ラテン・アメリカの解放の神学、黒人解放の神学、フェミニスト神学、アジアにおける解放の神学など。


 なお、以上はシラバス掲載の文書であるが、実際の講義は、前期において、「現代世界とキリスト教」(宗教批判と科学、心の科学と宗教、宗教哲学の新しい可能性)について講義を行い、上のシラバスの内容は、後期に講義される予定である。

B.演習
1.キリスト教思想研究の現在(月3)

 本演習は、現代のキリスト教思想あるいはキリスト教思想研究の動向について共同研究することを目指している。キリスト教思想そしてその研究は、現在複雑に細分化されいわば混沌とした様相を呈しており、キリスト教思想研究に専門に携わる研究者にとっても、独力では見通しのつかない状況にある。こうした思想状況において、注目すべき主要な動向を明らかにし、その認識を共有することによって、新しいキリスト教思想研究の方向付けを行うということが、本演習の最終目標になる。
 そのために、演習参加メンバーには、それぞれの専門の研究領域における研究動向をレポートすることが求められる。具体的には、様々な思想家についての紹介的論評や新しい研究文献の書評・解説、あるいはメンバー各自が作成しつつある論文や学会発表についての紹介など、様々な形態の発表を中心に演習を進めたい。したがって、メンバーには積極的に討論に参加する態度が求められる。

2.日本・アジアのキリスト教-波多野精一(1)-(月1)

 日本・アジアのキリスト教の歴史を振り返りつつ、その新しい思想的可能性を探ることは、日本におけるキリスト教思想研究にとって重要な意味を有している。本年度は、昨年度の植村正久と高倉徳太郎の神学思想に続いて、波多野精一の宗教哲学の考察へと進みたい。波多野は、高倉が植村の神学的後継者であるのに対して、思想的に植村の影響を受けつつも、同時に日本のキリスト教思想における独自の本格的な宗教哲学を構築したことで著名な思想家である(波多野宗教哲学)。
 波多野宗教哲学については、この演習で今後数年にわたって取り組む予定であり、本年度は、宗教哲学三部作(『宗教哲学序論』『宗教哲学』『時と永遠』)に取り組む準備として、全集第一巻、第二巻に収録された、諸論考を取り上げたい。
授業では、日本キリスト教思想において波多野に関連した諸問題、あるいは波多野についての諸研究についても、留意しつつ、テキストの厳密な読解を試みてみたい。

 『波多野精一全集』第一巻、第二巻(岩波書店)


3.宗教と科学の関係論構築に向けて―パネンベルク(1)― (火2)

「宗教と科学」の関係を現代世界の新しい問題連関において解明することは、現代キリスト教思想研究の中心的テーマの一つに他ならない。本年度は、こうしたキリスト教思想研究の動向について、昨年度のモルトマンに続いて、モルトマンと共に現代ドイツを代表する神学者パネンベルクのテキストによって、考察を深めてみたい。
 本年度の演習では、この論文集に所収の論文を順番に読み進めてゆく予定であるが、パネンベルク神学、あるいは現代キリスト教思想全般を理解するに必要となる関連事項について、随時補足説明を行う予定である。また、参加メンバー自身の問題意識に基づく研究発表の機会も設けたい。

Wolfhart Pannengerg, Natur und Mensch ---und die Zukunft der Schoepfung,
Vandenhoeck & Ruprecht, 2000.

4.新約聖書とその思想─「イエスの譬え」研究─(後期・月4)

 「イエスの譬え」についての最近の研究文献(英語あるいはドイツ語)の読解を手掛かりに、聖書学の前提と方法についての理解と習得を目ざす。同時に、「イエスの譬え」のいくつかを、原典で講読する。受講希望者は、前期の内に、ギリシャ語初級文法を習得の上、受講すること(この点については、必要があれば、個別的に相談を行う)。



C.キリスト教学講義(学部生向け・概論 木2)
   キリスト教学の主要問題について基本的な内容を概説する。


  前期のテーマは、「宗教現象としてのキリスト教」であり、現代宗教学の方法論におけるキリスト教研究について、その基礎的な内容を体系的に論じる。主要な問題としては、究極的関心としての信仰、自己同一性、聖なるものの諸構造、宗教的象徴と宗教言語、儀礼などである。これらの議論の後に、近代聖書学の基礎と最近の諸問題(イスラエル民族、聖書の構造分析、終末論)について、その動向を検討する。
後期のテーマは、「キリスト教思想史の諸問題」であり、今年度は、宗教と科学の関係史を、聖書と古代キリスト教から、中世キリスト教(自然神学、12世紀ルネサンス)と宗教改革(ガリレオ裁判)、そして近代(ニュートンとニュートン主義、啓蒙的近代、進化論)までたどることによって、キリスト教思想の歴史的展開を論じる。その上で、科学技術との関わりにおける倫理的諸問題(生命と環境、心と情報)について、最近のキリスト教思想の議論を紹介する。
 以上によって、キリスト教学がどのような学問分野であり、どんな研究を行っているかについて、基本的な理解が可能になるものと思われる。
 なお、京都大学オープンコースウェア(OCW)から、毎回の講義ノートを各自ダウンロードすること
(http://ocw.kyoto-u.ac.jp/jp/index.htm)。



(2)大谷大学
1.キリスト教学1(前期・水4)

 テーマ キリスト教の基本構造―現代宗教学からのアプローチ―

序 論:キリスト教とアジア
第1講:現代宗教学とは何か
第2講:宗教概念の諸問題
第3講:信仰と自己同一性
第4講:聖なるものの現象学(1)-宗教類型論-
第5講:聖なるものの現象学(2)-オットーとエリアーデ-
第6講:宗教的象徴と宗教言語
第7講:儀礼とサクラメント
第8講:聖書を読む(1)-正典論と霊感説-
第9講:聖書を読む(2)-近代聖書学とその方法-
第10講:イスラエル民族の起源
第11講:構造主義と聖書解釈
第12講:聖書の構造分析
第13講:神の国と終末論
第14講:パウロの国家論


2.キリスト教学2(後期・水4)

 テーマ 現代キリスト教思想の諸問題

序 論:キリスト教思想を学ぶ意義
第1講:聖書の世界(1)─創造と契約─
第2講:聖書の世界(2)─罪と悪─
第3講:聖書の世界(3)─救済と終末─
第4講:キリスト教と社会(1)─男と女─
第5講:キリスト教と社会(2)─家族─
第6講:キリスト教と社会(3)─民族─
第7講:キリスト教と社会(4)─グローバル化・多元化─
第8講:キリスト教と社会(5)─近代/ポスト近代とキリスト教─
第9講:キリスト教と現代の倫理的諸問題(1)─生命倫理─
第10講:キリスト教と現代の倫理的諸問題(2)─環境倫理─
第11講:キリスト教と現代の倫理的諸問題(3)─情報倫理─
第12講:キリスト教と現代の倫理的諸問題(4)─経済倫理─
第13講:キリスト教と現代の倫理的諸問題(5)─戦争と平和─
第14講:キリスト教と現代の倫理的諸問題(6)─まとめ─


(3)奈良女子大学
1.現代宗教学への招待(前期・水2)

 現代宗教学は百数十年前に経験科学を基礎にして成立以来、多面的な発展をとげ、現在に至っている。本講義は、宗教とは現代人にとっていかなる積極的な意味をもっているか、という問いに対して、現代宗教学の立場から客観的に論じることを目標としている。本年度は、宗教現象としてのキリスト教の基本構造を現代宗教学の諸方法(宗教現象学、宗教社会学など)によって解明し、比較宗教学や神話論を含めた現代宗教学の全体像を明らかにしたい。

  序 論 キリスト教の現在-アジアを中心に-
  第1講 宗教学の課題と方法
  第2講 意味の問いとしての宗教と宗教現象モデル
  第3講 宗教現象の基本構造
     1 信仰と自己同一性
     2 宗教類型論と人格神
     3 聖なるもののダイナミズム
  第4講 宗教的象徴と宗教言語
  第5講 宗教言語と神話
     1 神話学と比較宗教学
      2 古代イスラエル民族と起源神話
     3 キリスト教とイズラーム─起源神話の改訂作業─
      4 聖書の神話構造
      5 日本宗教の構造分析
      6 仏教と神話的思考
  第6講 儀礼論
  試 験  

2.現代世界と宗教の意味(後期・水2)

  現代世界における宗教を論じる場合、グローバル化と多元化という二つの動向は決定的な意義を持っている。この講義では、キリスト教と東アジアという二つの対象を、歴史的な観点(グローバル化と多元化の歴史的な展開)から実証的に辿ることによって、現代世界における宗教の意味の問題へとアプローチしたい。その際に、とくに平和思想との関わりを焦点としつつ、現代の宗教思想の問題点が論じられる。

  序 論 聖書から宗教思想へ 
  第1講 キリスト教とその歴史的展開
      1 聖書の世界
      2 古代地中海世界とキリスト教
     3 中世ヨーロッパとキリスト教
      4 宗教改革と西欧近代 
      5 近代キリスト教と世界布教
  第2講 東アジアの宗教状況と相互交流
      1 古代日本と東アジア
      2 キリシタン時代とその影響
     3 近代日本とキリスト教
      4 日本宗教の世界布教
  第3講 比較宗教思想研究─平和思想を中心に─
     1 平和思想の歴史と現在─キリスト教の視点から─
     2 キリスト教思想と平和─内村鑑三の非戦論─
     3 仏教思想と平和
     4 宗教間対話と平和  
  試 験  

(4)京都大学・全学共通科目
  キリスト教と現代世界(前期・月4)

 キリスト教は、2000年におよぶ歴史を有する共に、現代生きて動きつつある宗教である。本講義では、キリスト教思想の新しい動向を、現代世界が直面する多様な諸問題との関わりで学ぶことを目標とする。そのために、キリスト教の思想的源泉である聖書とキリスト教史に注目しつつ問題の核心に迫りたい。
 
 第1回:オリエンテーション
 第2回:序論 キリスト教思想を学ぶ意義
 第3回~第5回:
      第1講:聖書の世界
         1.創造と契約
         2.罪と悪
         3.救済と終末
 第6回~第9回:
      第2講:キリスト教と社会
         1.男と女
         2.家族
         3.民族
         4.グローバル化・多元化
 第10回~第13回:
      第3講:キリスト教と現代の倫理的問題
         1.生命倫理
         2.環境倫理
         3.経済倫理
         4.戦争と平和

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