研究紹介1(研究領域)    2001年度現在

 1.宗教学とその基礎論
 2.信仰論と宗教言語論
 3.ティリッヒ研究
 4.現代キリスト教思想(ティリッヒ以外)
 5.科学と宗教(キリスト教)
 6.アジア・日本のキリスト教
 7.キリスト教思想における自然の諸問題
     (京都大学キリスト教学特殊講義)
 8.その他

  以上の研究領域が、現在、わたくしが関心をもって、研究を進めつつあるものであるが、次にその内容を具体的に説明してみよう。なお、研究領域の表題の後に、括弧内に示した記号は、その研究領域に分類できる「研究紹介2(業績一覧)」の著書・論文などに対応している。

1. 宗教学とその基礎論: (A−1/1,A−2/5,B/6)
  大阪市立大学文学部で宗教学を担当以来、宗教学全般について、関心を持ち続けてきた。それには、日本の新宗教論など、フィールド・ワークに近い内容のものも含まれるが、関心の中心は、宗教の概念規定(宗教とは何か)、宗教批判(なぜ宗教なのか)、宗教的複数性(どの宗教なのか。宗教間コミュニケーション)といった宗教学の基礎論にある。現在は京都大学でキリスト教学を担当しているが、キリスト教学は何よりもまず宗教学に属しているというのが(これだけを聞けば、当たり前のように感じられるかもしれないが)、わたくしの見解である。大阪市立大学時代に、『宗教学のエッセンス』を出版以来、何度か、大学教育における宗教学・キリスト教学の教科書を企画していたが、その際の一番の留意点は、宗教学としてのキリスト教学をいかに教えるかということであり、現在も、新しい企画を検討中である。

2. 信仰論と宗教言語論
:(B/1,7,8,16)
 京都大学文学部提出の卒業論文(「P・ティリッヒに於けるシンボルの問題」)以来、宗教的象徴あるいは宗教言語をめぐる諸問題(象徴論一般、言語理論、隠喩論、テキスト解釈学、コミュニケーション論)は、わたくしの研究の中心テーマの一つであった。宗教言語をめぐる研究は、博士課程在学時より、イエスの譬え解釈へ具体的に展開され、さらに最近は、宗教言語を手がかりとした、信仰のダイナミズムの解明へと関心が及んでいる。現在、次の議論の展開を模索中である。こうした連関で、現代聖書学や哲学的言語諸理論にも、おおいに関心をもっている。

3. ティリッヒ研究:(A−1/2,3,A−2/4;B/1,2,3,4,
         5,7,8,13,16,18,19,20,23;C−3/2)
 ティリッヒは、20世紀のプロテスタント・キリスト教思想を代表する思想家の一人であるが、卒論や修論(「カイロスとロゴス―ドイツ時代におけるP.Tillichの歴史的思惟―」)から、そして博士学位論文(「P・ティリッヒの宗教思想研究」)、そして現在に至るまで、わたくしの研究は、このティリッヒとの関わりで展開してきた。もし、何を研究していますかと聞かれれば、ティリッヒというキリスト教思想家を中心に近現代キリスト教思想を研究していますというのが、わたくしの研究実態に即した答えあろう。しかし、一口にティリッヒ研究といっても、様々な形態が可能であり、わたくしの場合は、次の三つの問いを念頭に、ティリッヒの思想世界の全体的理解を目指している。 
 (1)ティリッヒを突き動かしてきた問題意識・根本課題は何か(→弁証神学)。
 (2)ティリッヒの半世紀を越える思想の発展過程は、どのように説明できるのか( →思想の発展史的研究)、またこの発展過程はキリスト教思想史の中にどのように位置づけられるのか.
 (3)ティリッヒの思想体系に含まれる諸思想・諸テーマの相互連関、内的構造をいかに解明できるのか(→思想の体系性)、またティリッヒの諸思想(神学、哲学、宗教学、社会思想、芸術論、科学論、精神分析など)は、現代の思想的課題(宗教と科学の関係論、自然の宗教哲学、エコロジー、生命倫理、宗教間対話など)にとっていかなる意味を持っているのか。
 博士学位論文を提出した直後など、ティリッヒから離れて、キリスト教思想の別のテーマへ、研究を展開したいと考えた時期もあったが(実際、ティリッヒ研究とは、直接関わらない諸テーマについても、現在研究を進めつつある)、現在も、ティリッヒに関する専門研究は、わたくしの研究領域の重要な部分を占めている。とくに、最近は、新しく刊行されたティリッヒ諸文献を基にして、ティリッヒの思想的背景である19世紀の思想史のコンテキストにおいて、ティリッヒを解釈する作業を続けている。またわたくし個人としての研究だけでなく、ティリッヒに関心のあすな研究者グループ(ティリッヒ研究会)による共同研究にも力を入れている。

4. ティリッヒ以外の現代キリスト教思想:(B/9,10,12,
                                     17)
 ティリッヒを中心に研究を行ってきたと言っても、ティリッヒを理解するためには、同時代のキリスト教思想家について、また、新しいキリスト教思想のテーマについて一定程度以上の研究を行うことが必要になる。こうしたティリッヒ研究との直接的関わりを離れても、現代キリスト教思想全般は、わたくしの研究にとって、重要性を増してきている。これまで、とくに論文化されたもので言えば、ヘルムート・R・ニーバー、アルベルト・シュヴァイツァーといった思想家や、環境論・エコロジー、生命倫理、終末論、キリスト論などが、挙げられる。

5. 科学と宗教(キリスト教):(A−3/6;B/10,11,15,
                          18;C−2/1,2,3)
 理学部以来、宗教・キリスト教と科学との関係をめぐる諸問題は、わたくしの大きな関心事であった。しかし、「宗教と科学」というテーマに本格的に取り組むだけの用意が一定程度整ってきたのは、比較的最近のことであり、まだ満足の行くレベルにはほど遠いと状況である。しかし、ティリッヒ研究会と共に、現代キリスト教思想研究会のプランチである「宗教と科学」研究会という場における討論を手がかりに、次の点について、現在研究を進めつつある。
 (1)近代科学の成立とキリスト教との関連について。とくに、ニュートンとその弟子たちの神学(自然神学と聖書解釈、歴史神学)、そして彼らの論敵である理神論を、当時の社会的コンテキストにおける社会的機能に注目しつつ分析すること。
 (2)自然の宗教哲学(自然哲学・自然の哲学/自然神学・自然の神学)の構築に向けて。これは、2001年9月16日の日本宗教学会学術大会での研究発表(「ティリッヒとエコロジーの問題」)において、公にした構想であるが、ティリッヒの生の次元論を基盤として、これまでの研究会での共同研究(とくに、デイヴィスやギルキーの輪読)から、生まれたものである。今後、この構想の具体化が、研究の中心テーマになるであろう。
 (3)倫理的諸問題について。この20あるいは30年の間に、「宗教と科学」というテーマが、宗教研究において盛んに取り上げられるようになってきた。その背景には、生命や環境、情報に関して科学技術がもたらした大きな変動に対して、倫理的にどのように対処すべきなのかという問題意識が存在している。その点で、「宗教と科学」は、きわめて実践的な意味を有しているのである。わたくし自身は、とくに、生命倫理や環境倫理に関連して、これらの諸問題のどこに宗教的問いが存在しているのかという点に注目しつつ、いくつかの論考を公にしてきている。というのも、宗教思想として脳死や環境を論じる場合、問われるのは、宗教思想として何が言えるか、ということだからである。2001年から2002年にかけては、「宗教と科学」研究会の刊行予定の論文集で、このテーマを論文化するとともに、宗教倫理学会や比較思想学会で、研究発表を予定している。

6. アジア・日本のキリスト教:(B/14,17,21,22)
 この5年あまりの間、亜細亜大学のアジア研究所にて、「アジアのキリスト教」に関する研究発表を行い、同研究所の紀要に二つの論文を掲載する機会が与えられた。アジアにおいてキリスト教を研究する者として、「アジアのキリスト教」を思想的に評価し、その可能性を論じることは、研究の当然の展開と言えよう。21世紀におけるアジアのキリスト教の可能性を考えるとき、その意義はきわめて大きいように思われる。現代キリスト教思想において注目されつつある、宗教の神学や宗教間対話といった問題は、アジアのキリスト教においてこそ、問われるべきものであろう。2001年度からは、京都大学キリスト教学において、「日本・アジアのキリスト教」の演習を開始し、今後の研究の本格化に備えつつある。将来は、東アジア(日本、中国、台湾、韓国、そして宣教師派遣国としてのアメリカ)のキリスト教に関して、フィールド・ワークを基礎にした共同研究を実施したいと考えている。

7. キリスト教思想における自然の諸問題(京都大学での特殊講義として)
 京都大学キリスト教学に着任してから、5年ほどの間は、キリスト教学特殊講義において、「信仰−言語−解釈−聖書」という問題を論じてきた。これは、「第一部:信仰論、第二部:宗教言語とテキスト解釈学、第三部:聖書テキストの解釈から聖書の信仰論へ」という構想に従ったものであり、博士学位論文の第二部を基に、それを大幅に展開したものである。その意味では、博士論文の延長上の研究といえる。その成果は、部分的には、論文として公表されているが、大部分は、未刊行であり、いずれ、一冊の著書にまとめるということも考えているが、しかし、研究テーマの中心が、先に述べた「宗教と科学」に移行しつつあるのに伴って、特殊講義も、2000年度からは、「キリスト教思想における自然の諸問題」という題目で行われている。この2年間の特殊講義によって、問われるべき問題連関はかなり明確に浮かび上がってきた。したがって、2002年からは、このテーマを本格的に論じることができるものと思われる。

8.その他
 専門研究のレベルには至っていないが、次のようなテーマも、これまでの問題領域との関連で、注目している。
 ・古代キリスト教思想における自然神学の成立とその意義
 ・神秘主義研究(ノーリジのジューリアンなど)

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