3.ティリッヒ研究文献(新着)                   2011/1/4
  
  ここでは、2002年4月以降に新着文献の紹介が行われる。書名の後に、「(図書)」とある文献は、芦名研究室の蔵書ではなく、京都大学文学部キリスト教学で購入し、文学部書庫に蔵書予定のものである。
 なお、Tillich-Studienなど研究叢書に属する文献は、本ホームページの別の頁に掲載されている。

44.石浜弘道
   『霊性の宗教──パウル・ティリッヒ晩年の思想
   北樹出版、2010年。

 本書は、副題にあるように晩年のティリッヒの宗教思想を、「霊性」という観点において論じた
研究書である。「あとがき」にあるように、カントの理性の立場(『カント宗教思想の研究──神
とアナロギア』北樹出版、2002年)から霊性へという展開において、ティリッヒに注目し、晩年の
ティリッヒを論じたというのが、本書のスタンスであるが──必ずしも、先行するティリッヒ研究の
地平を念頭に入れられていない点が、専門研究としては物足りないと言うべきであろうか──、
「第二章  霊性の展開」の「第五節 鈴木大拙の「霊性」」は、ティリッヒ研究を別にしても、興
味深い。

43.Donald W.Musser, Joseph L.Price
   Tillich. Abington Pillars of Theology.
   Abington Press, 2010.

 本書は、一般アメリカの読者(たとえば、神学を学び始めた学部生)を対象とした、ティリッヒ
の神学思想についての紹介、概説を内容としたものである。文献的にも、ティリッヒのアメリカ
時代の主要著作に議論は絞られている。用語解説がついている点で、これからティリッヒを学
びたい人にはお勧めできるかもしれない。

42.Christian Danz, Werner Schuessler, Erdmann Sturm (hrsg.)
   Internationales Jahrbuch fuer die Tillich-Forschung, Band 4/2008,
   Religion und Politik
, Lit Verlag, 2009.

 本書は、ティリッヒ研究についての国際専門雑誌の4号であり、テーマは「宗教と政治」で
ある。これはティリッヒ研究の中心テーマであり、これまで多くの研究書が公にされてきた。
この雑誌には、宗教社会主義論を中心に、ユートピア、歴史、政治、権力論、存在論など
の中心思想が、現在一線で活躍の研究者によって論じられており、ティリッヒ研究を志す者
だけでなく、「キリスト教思想と政治」といったテーマに本格的に取り組む者にも、有益な内
容と言える。

41.ティリッヒ
   『宗教と心理学の対話 人間精神および健康の神学的意味』(相澤一訳)
   教文館、2009年。

 本書は、Paul Tillich, The Meaning of Heath. Essays in Existentialism, Psychoanalysis,
and Religion (1984)の抄訳論文集である。ティリッヒにおいて、心理学・精神分析学や健
康をめぐる議論は重要な研究テーマであり、この論文集によって、日本におけるこのテー
マの研究が進展することを期待したい。

40.Russell Re Manning (ed.)
    The Cambridge Companion to Paul Tillich. Cambridge University Press, 2009.
   Andrew O'Neill
    Tillich. A Guide for the Perplexed. T & T Clark, 2008.

 これら二つの書物は、ティリッヒについての研究状況の概説書あるいは入門書という性
格を有する、最近の文献である。前書は、現代の代表的なティリッヒ研究者によって、神学
から多様な問題連関に至る問題が取り上げられ、ティリッヒ研究の全体的動向を知るに便
利である。また、後書は、『組織神学』(全三巻)の内容を要領よく紹介しており、ティリッヒ
神学入門として読むことができる。

39.Paul Tillich (hrsg.v.Erdmann Sturm)
   Berliner Vorlesungen III (1951-1958)
   De Gruyter, 2009.

  本書は、現在刊行が進行中のドイツ語版ティリッヒ全集の補遺遺稿集の第16巻であ
り、ティリッヒが、ベルリン自由大学で行った講義が収録されている。ティリッヒ研究との関
連でとくに内容的に興味深いのは、この時期、進行している『組織神学』(全三巻)で展開
されるのと密接に関連にしたテーマが取り上げられて、詳細に論じられている点である。
今後、ティリッヒの組織神学研究にとって、この講義が重要な意味をもつことが予想され
る。
 Ontologie (Sommersemester 1951)
 Die menschliche Situation im Lichte der Theologie und Existentialanalyse
        (Sommersemester 1952)
 Die Zweideutigkeit der Lebensprozesse (Sommersemester 1958)

38.Paul Tillich (ed. Durwood Foster)
   The Irrevance and Relevance of the Christian Mwssage.
   Wipf & Stock, 1996.

 本書は、1963年、最晩年のティリッヒが行った Earl Lectures である。Pilgrim Pressから
出版されたもの再版であるが、今回別の出版社からの刊行されので、購入してみた。内
容はまったく同一である。

37.Richard M. Pomery
   Paul Tillich: A Theology for the 21st Century.
   Writer's Showcase, 2002.
 
 本書は、後期ティリッヒの主著である『組織神学』の全体について、各部の内容の紹介、
コメント、問題提起を行ったものであり、ティリッヒの組織神学の入門書として読むことがで
きるかもしれない。55歳になってティリッヒ神学と出会ったという著者の経歴も興味深い。

36.John P. Dourley
   Paul Tillich, Carl Jung and the Recovery of Religion.
   Routledge, 2008.
35.Terry D. Cooper
   Paul Tillich and Psychology. Histric and Contemporary Explorations
    in Theology,
Psychotherapy, and Ethics.
   Mercer University Press, 2006.

 これら二冊の研究書は、宗教心理学・精神分析といった問題領域に関わりで、ティリッヒ
の思想を論じるものであり、ティリッヒ研究の代表的な研究テーマを扱ったものと言える。
日本においては、こうした視点からのティリッヒ研究はまだまだ未開拓な分野であるが、現
代のキリスト教思想の動向を視野に入れるならば、今後、こうしたティリッヒ研究の展開が
必要となるであろう。これらの著者はいずれも英語圏におけるティリッヒ研究においてすで
に業績を挙げている研究者であるが(Dourleyのティリッヒ研究は邦訳がなされており、「テ
ィリッヒとユング」というテーマに関する基本的な研究文献となっている)、今回の紹介した
研究書で取り上げられる問題領域はきわめて広範に及んでおり、その点からも興味深い。

34.アルフ・クルトファーゼン、クランディア・シュルゼ編著
   『アーレントとティリッヒ』深井智朗、佐藤貴史、兼松誠訳
   法政大学出版局 2008年12月

 本書は、ティリッヒの思想研究という観点からは、異色な文献であるが、ティリッヒとい
う思想家の人物・伝記的事柄については、興味深いものと言える(伝記的事実をめぐる
実証研究は、思想研究にとっても不可欠の基礎をなす)。
 内容は、ティリッヒ同様にアメリカに亡命した、有名な政治思想家アーレントとティリッ
ヒという二人の人物をめぐる「スキャンダル」、つまり、すでに陰に陽に取りざたされてき
たティリッヒとヒルデ・フレンケルとの不倫・愛人関係とそれに対するアーレントの関与を、
アーレントとティリッヒの往復書簡などをもとにして、追跡したものである。これがティリッ
ヒ研究に何をもたらすかは今後の研究動向に待つ必要があるが、ティリッヒの思想理解
がその「脱神話化」を前提にすることは研究者の念頭に置かれるべき問題であろう(も
ちろん、これは、ティリッヒにかぎらず、バルトやブルトマン、ハイデッガーといった思想家、
また内村鑑三や植村正久といった日本のキリスト者にも当てはまる、しかもさらに的確
に当てはまる問題点である)。
 また、本書は第三部に「仮面と実存」と題された訳者である深井氏による、日本の読者
向けのティリッヒ紹介が収録されており、読者は有益な情報を得ることができる。
 なお、日本の一般的読者は別にして、ティリッヒ研究では、この「アーレントとティリッヒ」
はかなりの文献で扱われている事柄であることを指摘しておきたい(Googleのブック検
索で、検索すればわかるように)。

33.Christus Jesus − Mitte der Geschichte!? / Christ Jesus − the Center of History!?
   Beitraege des X. Internationalen Paul Tillich-Symposions Frankfurt/Main 2004
   Proceedings of the X. Internationa Paul Tillich-Symposion Frankfurt/Main 2004

   Peter Haigis, Gert Hummel, Doris Lax (Hg./Ed.)
   Lit Verlag  2007

 本書は、『ティリッヒ研究』(Tillich-Studien)の13巻目として出版された、2004年の
ティリッヒ国際シンポジウムの報告論文集である。今回のテーマは、キリスト論、とくに
歴史哲学との関わりおけるキリスト論であり、ティリッヒの中心的かつ特徴的な思想と
して、これまでも多くの研究者が論じてきた問題である。寄稿者の多くは、これまでもテ
ィリッヒ研究に積極的に取り組んできたおなじみの面々であり、興味深い論考が収録さ
れている。しかし、やや研究者が神学サイドに偏っているという印象は、今回も同様で
あり、歴史哲学の哲学的な掘り下げという点で、物足りないようにも感じられる。

32.『ティリッヒの宗教芸術論』
   石川 明人  北海道大学出版会  2007年

 本書は、著者が2004年に北海道大学大学院文学研究科に提出し学位を取得
した博士論文に修正を加えたものである。その内容は、題目からもわかるように、
ティリッヒの芸術論・芸術神学について、その基礎論(意味の形而上学や存在論
的人間学)から教会建築や現代絵画などの具体的な問題までが扱われており、
ティリッヒの芸術神学の全貌とその基本的な特徴が的確に論じてられている。キリ
スト論と表現主義、また愛の概念との関わりなど、著者ならではの独自の解釈が
示されており、博士論文にふさわしい優れた研究成果と言えよう。ティリッヒについ
てはもちろんのこと、より幅広いテーマを含めて、今後の研究の進展が期待される。

31.Reden ueber Deutschland. Die Rundfunkreden Thomas Manns, Paul Tillichs
   und Sir Robert Vansittarts aus dem Zweiten Weltkrieg.
 (Tillich-Studien 17)
   Matthias Wolbold
   Lit Verlag  2005
30.Ethique sociale et socialisme religieux.
   Actes du XVe Colloque International Paul Tillich Toulouse 2003

   (Tillich-Studien 14)
   Marc Boss, Doris Lax, Jean Richard (ed.)
   Lit Verlag 2005
29.En chemin avec Paul Tillich.
   Andree Gounelle, Bernard Reymond
   Lit Verlag 2004
28.Mutations religieuses de la modernite tardive:
   Actes du XIVe Colloque International Paul Tillic, Marseille, 2001
 
   (Tillich-Studien 7)
   Marc Boss, Doris Lax, Jean Richard (ed.)
   Lit Verlag 2002

 Tillich-Studien の中で抜けていた4冊の文献が届きましたので、まとめて簡単に
紹介します。これら4冊の研究文献からわかる最近のティリッヒ研究の動向は、ティ
リッヒの社会政治思想(第二次世界大戦やナチズムの問題を含めて)がかなり広範
に広く取り上げられていること(文献29の第三部はナチズムとの関わりを扱っている)、
そしてフランスでの研究が目立つである。とくに、ティリッヒの宗教社会主義論ついて
は、現代の政治思想との関わりにおいてさらに論究すべき点が多く存在するものと
思われる。

27.Internationales Jahrbuch fuer die Tillich-Forschung.Band 1/2005.
   Wie viel Vernunft braucht der Glaube?
   Christian Danz, Werner Schuessler und Erdmann Sturm (hrsg.)
   Lit Verlag  2005

 本誌は、ドイツ・ティリッヒ協会と共催する形で企画された「ティリッヒ研究」についての
新しい研究誌の第一号であり、最近様々な新しい企画が登場するドイツを中心とした
ティリッヒ研究の動向を示すものと言える。今回取り上げられたのは、「信仰と理性」と
いうキリスト教思想の古典的な問題であると同時に、ティリッヒ思想の中心問題の一つ
である。小論や報告以外に、8つの研究論文が収録されており、今後の発展が期待され
る。なお、最後にまとめられた、「新しいティリッヒ文献」には、ティリッヒに関わる学位論文
や雑誌論文も収録されており、有益な研究情報を得ることができる。

26.Theology at the End of Culture. Paul Tillich's Theology of Culture and Art.
   Russell Re Manning, Peeters  2005

 本書は、ティリッヒの文化の神学あるいは芸術神学をテーマとして研究書であり、著者
がケンブリッジ大学に提出し受理された博士論文である。これまでの類似の研究書と比
較するならば、本書はティリッヒの文化の神学の構想を19世紀の神学思想史(シュラ
イアマハー、ハルナック、トレルチなど)の文脈において詳しく論じることから考察を始め
ている点に認められる。議論の中心は前期ティリッヒに置かれている。

25.The Socialist Emigre. Marxism and the Later Tillich
   Brian Donnelly, Mercer University Press  2003

 本書は、ティリッヒと社会主義との思想的な関わりを論じたものであり、ティリッヒの宗教
社会主義論、政治理論といった研究領域に分類できるものである。しかし、これまでの
ティリッヒ論に比べて、本書は前期ティリッヒではなく、むしろ後期ティリッヒを取り上げて
いる点、またマルクス主義との関わりに踏み込んでいる点に特徴がある。

24.Paul Tillich and Psychology
   Terry D. Cooper, Mercer University Press  2006

 本書は、ティリッヒと心理学との関係という研究テーマについての研究書であり、アメリカ
 時代のティリッヒ思想の重要な側面を論じている。ティリッヒと心理学との関係という問題
 の重要性については、これまでも、しばしば指摘されてきたが、モノグラフとしては、フロイト
 やユングとの関わりを扱った比較的小さな研究があるだけで、ティリッヒの宗教思想と心理
 学との本格的な関係を論じたものは少なかった。本書はこれまでのティリッヒ研究がカバー
 できなかった分野を主題的に論じた点で、ティリッヒ研究に大きな寄与を行ったと言えよう。
 とくに、第5章「倫理と精神療法」は、ニューヨークの心理学グループとティリッヒの関わり
 (1943-1945)を扱っている点で、興味深い。

23.Macht und Gewalt.
   Annaeherungen im Horizont des Denkens von Paul Tiilich
.
   Werner Schuessler, Erdmann Sturm (Hg.), Lit Verlag 2005

 本書は、力、存在、愛という概念を基礎とするティリッヒの思想を多角的に取り扱った論文
 集である。ティリッヒの議論の特徴は力をめぐる諸問題(政治思想、社会思想)を、存在論
 あるいは人間学のレベルから構築するものであり、その問題は広範にわたっているが、
 本論文集は100頁程度の比較的小さなものであるにもかかわらず、ティリッヒの思想のこ
 うした特徴を鋭く捉えているように思われる。存在論的人間学から政治思想へという議論
 のたて方に関しても、現代のキリスト教思想との関わりで再検討すべき論点が多く含まれ
 ているのではないだろうか。

22.Paul Tillich. Dogmatik-Vorlesung (Dresden 1925-1927)
   Werner Schuessler und Erdmann Sturm (hrsg.), De Gruyter 2005

 本書は、ドイツ語版ティリッヒ全集の補遺遺稿集第14巻として刊行された、マールブルクと
 ドレスデン大学での神学講義の講義録である。これは、前期ティリッヒ神学の基礎資料と
 言えるものであるが、1986年に今回の編集者の一人でもあるシュッラーによって、Paul
 Tliich. Dogmatik. Margurger Vorlesung von 1925 (Patmos)として刊行されたものの改訂版
 に相当する。この新しい版の成立の経緯(1986年の版をなぜ改訂する必要があったのか)
 や、1986年版との比較に関しては、編集者の報告と序文を参照いただきたい。1986年版が
 出版されてすでに10年あまりが経過したが、残念ながら、世界的に見ても、前期ティリッヒの
 神学思想の研究は、まだマールブルク講義とドレスデン講義の講義録の十分な解明にはい
 たっていない。まだ資料を研究レベルで生かし切れていない段階であり、この新しい版の登
 場によって、前期ティリッヒ神学思想の研究が質量ともに展開されることを期待したい。

21.Religion and Reflection. Essays on Paul Tillich's Theology
   Robert P. Scharlemann,  Lit Verlag Wien 2004

 本書は、英語圏のティリッヒ研究を代表する研究者の一人に数えられる、シャールマンの研究
 論文集である。1965年から2002年と、かなり長期にわたって書かれた諸論文が収録されてい
 るが、その研究は、ティリッヒの組織神学的あるいは宗教哲学的問題における基礎的なテーマ
 (思惟の体系性、相関の方法、存在論、神概念)を中心に、芸術論や政治理論、あるいは関連
 する諸思想家との比較論(トレルチ、バルト、デュルタイ、ハイデッガー、フランクフルト学派など)
 まで広範な領域に及んでいる。収録の諸論文には、すでにティリッヒ研究においてよく知られた
 ものが少なくないが、こうして論文集にまとめられることによって、改めて、シェールマンの研究
 の重要性が再認識されるように思われる。

20.Paul Tillich's Theology of Culture in Dialogue with African Theology
   Sylverster I. Ihuoma,  Lit Verlag Wien  2004

 本書は、ティリッヒの文化の神学の意義を、アフリカという文脈で論じたものであり、ティリッヒ研究
 においては、新たな問題領域を切り開いたものと言える。論述の中心は、1920年代の文化の神
 学(学の体系論を含めて)の分析であるが、本書でも一定程度取り上げられている、ティリッヒの
 宗教社会主義論や宗教的象徴論などは、「アフリカ神学」という視点において、さらに批判的な展
 開が可能なように思われる。著者の今後の研究に期待したい。

19.Trinity and/or Quaternity --- Tillich's Reopening of the Trinitarian Problem
   Gert Hummel, Doris Lax (Ed.),  Lit Verlag   Wien 2004
 
 本書は、Lit Verlag から出版されている「ティリッヒ研究」の10巻目であり、2002年の国際パウル・
 ティリッヒシンポジウムにおいて発表された諸論文が収録されてものである。取り上げられている
 テーマは、ティリッヒと三位一体論という問題であるが、「四一性」という表現からもわかるように、
 テーマ設定においては、ティリッヒとユングとの関わりが一定の位置を占めていると言えよう。しかし、
 内容はかなり広範にわたっており、ティリッヒ神学における三位一体論の可能性や位置づけを論じ
 たものから、ティリッヒとカトリック、宗教的多元性・宗教間対話、ジェンダーなどを扱ったものまで、実
 に様々である。この多様性をどう評価するかは、ティリッヒ研究に限らず、現代のキリスト教思想自体
 の現状認識にも、深く関連することになるであろう。

18.Theologie als Religionsphilosophie.
    Studien zu den problemgeschichtlichen und systematischen Voraussetzungen
   der Theologie Paul Tillichs.
   
Christian Danz (Hg.),  Lit Verlag  Wien 2004

  本書は、『ティリッヒ研究』(Tillich-Studien)の第9巻として出版された論文集であり、ティリッヒ神学
  との問題史的あるいは体系的な連関で、ティリッヒの宗教哲学的諸問題を取り扱ったものである。
  ティリッヒの宗教理論の背景として、ヒルシュ、ジンメル、そして1900年当時の学問論の状況との関
  わりを論じた諸論文、初期から前期にかけてのティリッヒの神学思想構想(規範的宗教哲学として
  の神学、確実性と懐疑、歴の意味)を扱った諸論文、そして初期の思想構想の体系的な遂行として
  組織神学(神学の方法論、神の国、英米哲学における経験概念との関わり、宗教的な自己同一性)
  を論じた諸論文など、充実した内容となっている。

17.Philosophie de la religion et theologie chez Ernst Troeltsch et Paul Tillich.
   Ernst Troeltsch et Paul Tillich.
     Pour une nouvelle synthese du christianisme avec la culture de notre temps

   A. Dumais et J. Richard, ed  Les Presses de l'Universite Laval  2002

  この二冊の文献は、フランスにおけるティリッヒ研究の動向を伝える最新の論文集である。いずれの
  場合も、題名が示すように、ティリッヒをキリスト教と現代文化、宗教哲学と神学という問題連関で、
  トレルチとの対比を行いつつ論じた論集である。執筆者は、フランス語圏の研究者の他、英語圏の
  研究者も加わっており、収録された論文の半分は英語によるものである。(なお、書名などのアクセ
  ント記号は省略した。)

16.『ティリッヒ神学における存在と生の理解』
   茂洋  新教出版社  2004年12月
  本書は、1960年代以降の日本におけるティリッヒ研究をリードしてきた茂洋氏が、比較的最近に書かれ
  た論文や口頭発表原稿をまとめられた論文集である。以前に刊行された『ティリッヒ組織神学の構造』
  『ティリッヒの人間理解』に続くこの論集では、晩年のティリッヒの「聖霊論から神学を再構築する」という
  問題が扱われており、ティリッヒ神学がその最終段階で何をめざしていたのかを知る上で、貴重なもの
  となっている。
 
15.Nothingness in the Theology of Paul Tillich and Karl Barth.
   Sung Min Jeong   University Press of America  2003
  ティリッヒとバルトについての比較研究はこれまで少なからず存在していた。本書は、Drew Universityに
  提出された学位論文であり、タイトルにあるように、ティリッヒとバルトの比較という問題に、「無」(非存在、
  虚無的なもの)というテーマからアプローチしたものである。英語圏の先行研究には必要な範囲でふれて
  いるものの、ドイツ語圏の研究はほとんど扱われていないといった点で、ティリッヒの本格的研究としては
  やや物足りない面もあるが、今後、さらに神学的あるいは哲学的に問題を深めることが期待される。

14.Eternal Life. De Eschatologie in de theologie van Paul Tillich.
   J. Schipper   Druk: Offsetdrukkerij Faculteit der Wiskunde en Natuurwetenschappeh, Nijmegen
            1971
  本書は、1950年代以降のティリッヒの著作(『組織神学』を中心に)について、終末論というテーマを扱っ
  たモノグラフである。

13.Berliner Vorlesungen U(1920-1924)
   Paul Tillich  Walter de Gruyter 2003
  本書は、ドイツ語版ティリッヒ全集の補遺遺稿集の第13巻として刊行されたものであり、「ベルリン講義」
  の後半部分(1919-1920のベルリン講義前半部分は、すでに2001年に刊行されている)が収録されてい
  る。ベルリン講義は、ティリッヒが私講師として大学でのキャリアを開始した最初の講義であるが、前期テ
  ィリッヒの思索の基礎が形成される過程を示すものとして、ティリッヒ研究にとって決定的な意義を有してい
  る。とくに、前期ティリッヒの思想の中心概念である「内実」(Gehalt)が詳細に論じられている点で、また古
  代ギリシャ哲学から教父、中世思想、そして19世紀の哲学までに及ぶ、西洋思想史(哲学および神学)を
  扱った講義がなされている点で、注目すべき内容になっている。アメリカ時代の思想史講義以前における、
  ティリッヒの包括的な思想史講義が刊行されたことは、ティリッヒを思想史的に理解する点できわめて重要
  であり、今後のティリッヒ研究のいっそうの前進が期待できるであろう。   

12.Gott Denken. Studien zur Theologie Paul Tillichs
  Joachim Ringleben. Lit Verlag 2003
  本書は、シュッスラー編集の『ティリッヒ研究』(研究双書)の第8巻として出版されたものであるが、著者
  リングレーベンがこの数十年にティリッヒについて書いた論文を収録した論文集である。著者は、ティリッヒ
  における神の問題(神論)について、ティリッヒ神学の方法論から議論を開始し(第一論文)、聖霊・精神、
  歴史、宗教、啓示、象徴など、神をめぐる諸問題を多角的に扱っている。後半に展開される、神の近さと
  遠さの弁証法や象徴の議論は、参照に値すると言えよう。

11.Dialogues of Paul Tillich
  Mary Ann Stenger and Ronald H. Stone. Mercer University Press 2002 
  本書は、ティリッヒの社会思想の研究者として知られるストーンと、ティリッヒをフェミニスト神学の観点
  から研究してきているシュテンガーとの共著である。取り上げられるテーマは、宗教間対話、フェミニズ
  ム、社会思想の三つであるが、いずれも現代のティリッヒ研究で注目されているテーマであって、現代
  キリスト教思想の連関でティリッヒを研究する場合に、示唆的であろう。

10.Tillich and World Religions. Encountering Other Faiths Today
  Robison B. James. Mercer University Press  2003 
  本書は、ティリッヒを諸宗教の出会いという問題連関で論じたものであり、最近のティリッヒ研究の動向
  を反映したものである。しかし、具体的な問題の展開に関しては、たとえば、最終章「究極的実在は人
  格的か? ブーバーをティリッヒに付け加えること」において見られるように、著者独自の思索が現れて
  おり、興味深い。

9.The Polarity of Dynamics and Form: The Basic Tension in Paul Tillich's Thinking.
  Lasse HaLlme.  LIT Verlag  2003
  本書は、ティリッヒの『組織神学』(1951,57,63)の思惟構造(存在論)を両極性・緊張という観点から論
  じた研究書である。著者は、ヘルシンキ大学で博士号を取得し、現在ヘルシンキのルター派合同教区
  の教育部門の責任者である。

8.Tillich Journal 1(1997), 2(1998), 3(1999), 4(2000)
  Verlag und Datenbank fuer Geisteswissenschaften 
  第1,2,3巻は、芦名研究室所蔵、第4巻は京都大学文学部書庫

7.Unterweges zu einer anderen Theologie. Zur Weiterentwicklung genuin christlichen Denkens
  im Anschluss an Paul Tillichs philosophische Theologie
.
  Peter Sachwanz,  Lit Verlag  2002

6.Exilrufe nach Deutschland: Die Rundfunkreden von Thomas Mann, Paul Tillich und
  Johannes R. Becher 1940-1945,Analyse, Wirkung, Bedeutung

  Winfrid Halder,  Lit Verlag  2002 (Tillich-Studien-Beihefte; 3)

5.Paul Tillich and Chu Hsi. A Comparison of Their Views of Human Condition
  Kin Ming Au,  Peter Lang  2002
  
  本書は、ティリッヒと朱子の思想を、存在論と人間論という観点から比較研究したものであり、ティリッヒ研
  究として、注目に値するものといえる。しかし、本書は、第三部で、キリスト教と儒教との対話を論じている
  ことからもわかるように、東アジアにおける宗教的多元性とキリスト教という研究テーマにとっても、重要な
  意味をもっており、とくに1990年代以降の中国における「儒教的キリスト教」の動向も含めて、今後注視して
  ゆきたい。

4.Paulus Then & Now
  John J.Carey, Mercer University Press 2002

   本書は、ティリッヒを思想史伝統(ルター、マルクスなど)に位置づけるとともに、現代の諸問題(創造、倫理
   など)の中でティリッヒの思想的意義を論じるものであり、ティリッヒの思想にアプローチするための、良き入
   門書と言えるかもしれない。とくに、二つのティリッヒ文庫(ハーヴァードとマールブルク)についてのレポート
   と北米ティリッヒ協会の紹介が、付録として収録されており、興味深い。

3.9・11以を考える キリスト教とイスラーム 上下 パウル・ティリッヒの『文化神学』再訪
  ダニエル・アダムズ(前川裕 訳)  『福音と世界』2002/8,9 新教出版社
 
    この論考は、近代性、現代、ポストモダン、そしてキリスト教とイスラームとコンテクストにおいて、「神学と文
    化の間の交流」というテーマを展開したものである。副題にティリッヒの「文化の神学」という表現が見られる
    が、ティリッヒについては言及されのは、「下」の最後の数ページにすぎず、論者の関心は、「キリスト教とイ
    スラーム」にあると考えて良いであろう。韓国のキリスト教主義大学で教鞭を取るアダムズの視点も興味深
    い(茨の冠をかぶったイエスがマリリン・モンローを見つめている)。    

2.Religio vera ? Zur religionsphilosophischen Loesung der Wahrheitsproblematik im deutschen
  Werk Pail Tillichs (図書)

  Thomas Weiss    VDG, Weimar 2000
 
    これは、フランクフルトのヨーハン・ヴォルフガング・ゲーテ大学、哲学および精神科学部に提出された学位
    論文である。内容的には、1923年の『諸学の体系』の分析を中心に、ティリッヒの宗教哲学の方法、真理
    論を論じたものであり(第一、第二部)、さらに啓示論をはじめ、1920年代後半の思想も扱われている(第
    三部)。1923年の『諸学の体系』を詳細に論じているのが、本研究の特徴と言えよう。

1.Religion in the New Millennium: Theology in the Spirit of Paul Tillich,
     Raymond F.Bulman and Frederick J.Parrella(eds.)   Mercer University Press  2001

    21世紀のキリスト教神学の形成・展開という視点でティリッヒの思想を解釈する意欲的な論文集である。社
    会理論(宗教的社会主義、解放の神学)、ジェンダー・女性・エコロジー、現代芸術、宗教的多元性・宗教間
    対話、宗教と科学、といったテーマをめぐって、29人の英語圏のティリッヒ研究者あるいはティリッヒに影響
    を受けた思想家が、論文を寄せている。いずれ、個々の論文の詳しい紹介も行いたい。

inserted by FC2 system