6.「アジア・宗教的多元性」関連文献
                                              2011/2/3
 1.新着書
 2.芦名研究室所蔵文献
    (1) 年表・事典・辞典
    (2) 全集・著作集
    (3) 日本キリスト教研究書(単著・論文集)
    (4) 宗教的多元性関連文献
       (4−1) 和書
       (4−2) 洋書


1.新着書

45.川村清志『クリスチャン女性の生活史』青弓社、2011年。

 本書は、ライフヒストリー研究の方法論(社会学・文化人類学のフィールド研究の手
 法)を、近代日本のキリスト教、とりわけ女性に適用した研究であり、マクロな教派や
 組織の動向分析や統計データによっては、捉えられない、対象の細部に注目するこ
 とによって、個性的な宗教者個人の生の現場に迫る試みである。アジアあるいは日
 本のキリスト教研究はこうした研究の積み上げを土台になされるべきものと思われ
 る。
 取り上げられた人物は、2008年に逝去された丸山琴姉であり、本書の著者川村清志
 氏は、琴姉の孫にあたる(「あとがき」参照)。本書の紹介をしているわたくし自身、琴
 姉とは、同じ奈良高畑教会(本書で詳しく紹介されている)に所属する者であり、本書
 を読み進めるときに様々な思いを抱かざるを得なくなったが、具体的な時代を生き抜
 いた人物に寄り添ったキリスト教研究の意義を改めて感じさせられた。
 日本キリスト教研究において、このような研究が今後も積み重ねられることを期待した
 い。

44.阿部志郎他『賀川豊彦を知っていますか 人と信仰と思想』教文館、2009年。
   賀川豊彦『友愛の政治経済学』日本生活協同組合連合会、2009年。

 これらの書物は、2009年の賀川豊彦献身100年を記念して出版されたもので
 ある。賀川の再評価という日本キリスト教思想の重要研究テーマが、今後、ど
 のように進展するかについて、注目したい。

43.崔炳一
    『近代日本の改革派キリスト教─植村正久と高倉徳太郎の思想史的研究─』 
       花書院、2007年。
   徐正敏 『日韓キリスト教関係史研究』日本キリスト教団出版局、2009年。

 これら二つの著作は、韓国から日本の大学に留学し(留学の時期にかなり隔
 たりがあるものの)、最近博士号を授与された博士学位論文であり、水準の
 高い専門研究書である。それぞれ扱われたテーマの重要性とそれに対する独
 自の論考という点で注目すべき研究成果であるだけでなく、海外からの留学
 生が、日本語で執筆した学位論文が刊行されたことを喜びたい。現在、学位取
 得をめざして日本に留学中の方、あるいは今後留学を希望している方の励みと
 なる研究成果である。

42.太田愛人『『武士道』を読む 新渡戸稲造と「敗者」の精神史』
       平凡社新書 2006年。

 日本キリスト教史(明治期)においてこれまでも多くの論者が論じてきた、新
 渡戸『武士道』について、比較的最近に刊行された文献。新渡戸研究として、
 あるいは、「キリスト教と武士道」という問題設定に関して、参照すべき研究と
 言える。

41.『賀川豊彦全集』全24巻、キリスト新聞社、1983年
   『矢内原忠雄全集』全29館、岩波書店、1965年

 いずれも、賀川研究、矢内原研究にとっての基礎文献であるだけでなく、現代
 日本のキリスト教研究にとっても不可欠の資料である。2008年度の研究費で
 芦名研究室でも購入することができた。

40.富坂キリスト教センター編 『現代中国キリスト教資料集』
       新教出版社 2008年

 中国政府の発表によれば、現在7000万にあまりに及ぶ信徒を擁する中国キリ
 スト教(もちろん、地下教会や教会外のキリスト教に宗教的に共感する人々を
 加えれば、その広がりは政府の公式発表をはるかに超える)は、日本を含めた
 アジアのキリスト教、そして世界のキリスト教の未来にとって、重要な意味を持っ
 ている。当然、研究対象としても重要である。本書は、中国キリスト教についての
 基礎資料である。

39.雨宮栄一 『若き植村正久』
       新教出版社 2007年

 「このような巨大な人物であるにもかかわらず、正久の生涯全般に関して、また
 人物像の全体に関して立体的に描き出す評伝は不思議にない」(「序に代えて」
 より)。この空白を埋めようとする意訳的な評伝研究。
 植村正久は日本キリスト教史理解にとって決定的な人物であるが、その長所と短
 所を公正に評価するのは決して容易ではない。今後の研究に待たれる。 

38.雨宮栄一 『青春の賀川豊彦』 2003年、新教出版社
          『貧しい人々と賀川豊彦』 2005年
          『暗い谷間の賀川豊彦』 2006年

 著者による賀川豊彦評伝三部作が完成した。賀川は海外での高い評価にもか
 かわらず、現在の日本のキリスト教思想研究では、まとまった研究が見られない
 (もちろん、これには理由があるわけではあるが)。この研究状況を打破する上で、
 これら三部作は注目すべき研究成果と言える。

37.『南原繁著作集』全10巻
      岩波書店 2006年(1973年)

 近年の南原再評価の基礎をなす著作集の再版。日本国憲法や平和をめぐる問
 題状況において日本のキリスト教思想を思想を構築する作業にとって大きな意義
 がある。

36.京極純一 『植村正久 その人と思想』
      新教出版社 2007年(1966年)

 植村研究における貴重な名著の復刻である。
 
35.山本澄子 『増補改訂版 中国キリスト教史研究』
      山川出版社 2006年

 本書は、中国キリスト教史研究において、従来より定評のあった著書(東京大学
 出版会 1972年)の増補改訂版である。前篇では、中国プロテスタント教会史が
 概観され(1980年代の部分の叙述が今回追加された)、後篇では、1920年代以
 降の本色教会論・本色化運動に関わった代表的な思想家(趙紫宸、呉雷川、呉
 耀宗)の思想と中国における祖先崇拝の問題(第十章)が論じられている。本書
 の初版の刊行から、すでに30年以上が過ぎ、中国キリスト教についても、それな
 りの研究の蓄積があるものの、本書は日本語で読める中国基キリスト研究の最
 良のものであり、その価値を失っていない。この増補改訂版の出版によって、今
 後の日本における中国キリスト教研究の進展を期待したい。

34.森岡清美 『明治キリスト教会形成の歴史』
      東京大学出版会 2005年

 本書は、日本キリスト教についての社会学的方法論による研究を長年リードしてき
 た、森岡氏の最新著である。森岡のキリスト教研究における本書の位置について
 は、著者による「はしがき」をご覧いただきたい。第一部「明治前期の士族とキリスト
 教」、第二部「明治期地域社会のキリスト教」、第三部「明治期キリスト教の教派形
 成」のいずれにおいても、まず「序論」で、問題設定と方法論(「課題と理論モデル」
 「課題・概念・方法」「課題・概念・視角」が論じられており、手堅い研究書であること
 がわかる。おそらく、明治キリスト教の思想家たちについて関心のある人は第一部
 から、明治キリスト教を地域教会から捉えたいと考えている人は第二部から、そして
 明治キリスト教の制度化の問題を知りたい人は第三部から、そぞれぞ様々な示唆を
 受けるであろう。第一部第二章「キリスト教界指導者たちの家族形成」は、近代家族
 論との関わりからも興味深い。

33.マーク・R・マリンズ 『メイド・イン・ジャパンのキリスト教』
      トランスビュー 2005年

 本書は、キリスト教が日本において多様な仕方で土着化する過程を、多くの面接調
 査や文献資料の検討によって、実証的に明らかにすることを目指している。こうした
 研究は、これまでの日本キリスト教研究を補完するものとして、また新たな視点を導
 入するものとして興味深い。伝統的な諸教派や無教会から、道会(松村介石)、基督
 心宗教団(川合信水)、イエス之御霊教会(村井)、聖イエス会(大槻武二)、原始福
 音運動(手島郁郎)など、日本におけるキリスト教が取り上げられており、プロテスタ
 ント神学と祖先崇拝の衝突、世界の再呪術化、押し寄せる韓国キリスト教など、重要
 な論点を扱っている。

32.『植村正久著作集 全7巻』 新教出版社

 この著作集は、1960年代刊行のものであるが、今回、芦名研究室に新着書として
 届けられた。これによって、明治キリスト教を代表する教会指導者であり思想家であ
 る植村正久の思想に対して、本格的な研究を進める最低限度の準備が整ったと言
 える。今後、さらに文献の整備を進め、研究体制を整えたい。

31.佐藤吉昭 『キリスト教における殉教研究』 
       創文社  2004年

 本書は、佐藤吉昭氏が京都大学に提出された博士学位論文をもとにして出版され
 たものであり、日本のキリスト教研究で殉教をテーマとしたものとしては最重要の
 専門研究と言える。しかし、佐藤氏の研究を知っている人は、この書が、「アジア・
 宗教多元性」関連文献として紹介されているのに驚かれるかもしれない。というの
 も、佐藤氏は、日本におけるキリスト教教父(とくにラテン教父)研究をリードしてきた
 研究者であり、実際、本書でも、第二部、第三部という全ページの三分の二以上で
 論究されているのは、キプリアヌス、イグナティオスらの思想だからである。しかし、
 本書をあえて「アジア・宗教多元性」関連文献も収録した理由は、本書の第一部(お
 よそ100頁)が、「日本キリシタンの殉教」を扱っているからに他ならない。殉教を論
 じる佐藤氏の視点は、従来の狭い専門研究を超えて、殉教という事柄自体に及んで
 おり、おそらく、こうした視点と方法論は、日本やアジアのキリスト教研究にとっても
 重要な意味を持っているのではないだろうか。

30.土肥昭夫 『歴史の証言 日本プロテスタント・キリスト教史より』
       教文館 2004年
 
 本書は、日本プロテスタント・キリスト教史の第一人者である、土肥氏の最新書であ
 る。序論では、日本プロテスタント教会史を地域教会史として展開する方法論が示さ
 れ、第一部では、日本基督教団を中心として、諸教派の歴史が論じられている。また、
 続く第二部ではキリスト教指導者・知識人(小崎弘道、植村正久、海老名弾正、内村
 鑑三、賀川豊彦ら)が論じられており、日本プロテスタント・キリスト教を様々な角度か
 ら考察するのに、最適の書と言える。

29.Veli-Matti Kaerkkaeinen
   Trinity and Religious Pluralism. The Dctrine of the Trinity
   in Christian Theology of Religions
,  Ashigate 2004

 本書は、宗教的多元性の問題を「宗教の神学」として論じようというものであり、まさ
 に現代のキリスト教神学の問題状況を反映したものと言えよう。本書の特徴は、宗
 教の神学が三位一体論との関わりで、つまり、キリスト教神学の基礎レベルから構
 築されねばならないとする点にあり、それはきわめて正当な主張であるように思わ
 れる。

28.西谷幸介 『宗教間対話と原理主義の克服 宗際倫理的討論のために』 
       新教出版社  2004年

 本書は、宗教間対話や原理主義という現在「宗教」をめぐって様々に論じられている
 テーマを、現代のキリスト教、とくに日本における討論の経緯をふまえて分析し、そ
 の上で著者自身の立場(宗際倫理的討論)を明確に打ち出したものである。サブタ
 イトルにもあるように、本書はこれまでの討論を反省的に総括した上で、今後の討論
 の展開を目指しており、同様の問題を共有する研究者やこうしたテーマに関心のある
 学生にとって一読に値するものと言えよう。原理主義の諸動向や日本の宗教的状況
 について論じた付論も興味深い。

27.高田信良 『宗教の教学 親鸞のまねび』 法蔵館 2004年

  本書は、仏教の立場から、アジア・日本の宗教的多元性の文脈で、積極的な発言
  を行っておられる著者が、長年取り組んできた「宗教の教学」についての諸論考を
  まとめられた論文集である。キリスト教思想のおける「宗教の神学」にいわば対応す
  る議論の構築が仏教の側(親鸞・浄土真宗)から目指されている点で、本書は独自
  の思索の地平を切り開くものであり、注目すべき多くの議論を提示している。今後、
  アジアの宗教的多元性をめぐる問題を論じる上で、本書のような仏教の立場からの
  理論的取り組みを十分に参照してゆきたい。

26.森本あんり 『アジア神学講義 グローバル化するコンテクストの神学』 
      創文社 2004年

  本書は、森本氏が2002年秋学期にプリンストン神学校大学院で実際に行った講義が
  元になっており、その授業の様子は、序章の3「授業の風景から」で紹介されている。
  氏は、東アジアの文脈に特化した神学(「文脈化神学」の具体化)を現代の視点で再
  考することを目指している。そのために、アンドルー・パク、C.S.ソン、小山晃祐、ジュ
  ン・ユン・リーの4人の神学者が詳しく論じられ、最後に総括がなされている。今後に残さ
  れている問題も多くあるように思われるが、アジアの神学というテーマがいかなる視点と
  方法によって、いかなる問題として展開されるかについて、本書は重要な問題提起を行っ
  たと言えよう。

25.木村公一 『インドネシア教会の宣教と神学 開発と対話と解放の神学の間で』
       新教出版社 2004年
 
  本書は、インドネシアのキリスト教の全貌をその歴史と神学思想とに関して詳細に紹介
  したものとして、アジアの神学を論じる上で、また日本のキリスト教にとって、画期的な
  意味を持つものである。わたくしは、以前に『福音と世界』に連載されていた木村氏の論
  考の読者の一人として、キリスト教とイスラームとの関わりを具体的な文脈で考える上で、
  改めて本書を参照したいと考えている。なお、本書は、「あとがき」によれば、Asia Baptist
   Graduate Theological Seminaryに博士論文として提出されたものであるとのことである。

24.大内三郎 『植村正久 生涯と思想』 日本キリスト教団出版局 2002年
   佐藤敏夫 『植村正久』 新教出版社 1999年

  この二冊の著書は、「21」で紹介した武田清子の著書と同様に、「植村正久」をテーマ
  として最近出版されたものである。こうした植村正久についての著作の刊行は、植村
  正久を反省的に研究するという状況が成熟してきたことを示すものであり、今後の日本
  キリスト教思想研究にとって重要な意味をもっていると言えよう。これら二つの詳しい
  内容については、原島正氏による書評(『日本の神学』42 日本基督教学会 2003年、
  157-166頁)をご覧いただきたい。

23.マイケル・パイ、宮下晴輝、箕浦恵了編 『仏教とキリスト教の対話 U』 
      法蔵館 2003年
   ハンス−マルティン・バールト、マイケル・パイ、箕浦恵了、門脇健編
      『仏教とキリスト教の対話 V』 法蔵館 2004年

  この二冊の論文集は、大谷大学とマールブルク大学が、「浄土真宗と福音主義神学」
  というテーマで、1999年以来、継続して行われている宗教間対話共同研究の二回目
  と三回目の記録である。二回目の記録では、宗教間対話と信仰の自己同一性が、また
  第三回では世俗化というコンテキストにある東西の宗教が、それぞれ中心テーマとして
  設定され、集中的でレベルの高い共同研究の成果が収録されている。宗教間対話は、
  一過的な仕方ではなく、長くしかも集中的に行うことが必要と思われるが、この大谷大学
  とマールブルク大学との共同研究は、その点で今後の展開が大いに期待できるものと思
  われる。

22.Daniel L. Overmyer (ed.),
   Religion in China Today,
    Cambridge University Press  2003

  現代中国においては、宗教への関心の高まりが顕著に見られ、伝統的な諸宗教(道教、
  仏教、イスラーム、そしてキリスト教)や新しい宗教運動などが活発に活動を展開しつつ
  ある。こうした現代中国における宗教動向をその全体像において知るのに、本論文集は
  重要な情報と視点を提示している。今後の本格的な研究の手がかりをつかみたい。

21.武田清子 『植村正久 その思想史的考察』 教文館 2001年

  明治の日本キリスト教の中心的指導者であった、植村正久については、これまでも様々
  な研究がなされてきたが、本書は植村の人物と思想をバランスよく扱った好書である。

20.『近代日本キリスト教名著選集』第V期 キリスト教受容史篇 全8巻別冊1

  この選集には、以下の文献が含まれている。
  『基督教評論』(山路愛山)、 『開教五十年記念講演集』(宣教開始五十年記念委員会)、
  『回顧二十年』(福永文之助)、 『基督新教横断面』(沖野岩三郎)、 『日本伝道めぐみの
  あと』(占部幾太郎)、 『信仰三十年基督者列伝』(警醒社)、 『荒野』(木下尚江)、 
  『基督教概論未定稿 我が信教の由来と経過』(海老名弾正/海老名一雄)、
  『信仰五十年史』(田村直臣)、 『信仰五十年』(松村介石)


19.『内村鑑三全集』全40巻 岩波書店
 
  『内村鑑三全集』が芦名研究室に入り、無教会に関わる研究がより円滑に行えるようになった。

18.Peter Balla
   The Child-Parent Relationship in the New Testament and its Environment.
   Mohr Siebeck  2003
   
   本書は、新約聖書学の専門書であり、この頁に収録された他の文献とはやや異質であるが、わたくし
   の研究テーマ(アジアのキリスト教を、キリスト教的家族と東アジアの儒教的家との比較で論じる)との
   関わりから、ここに収めることにした。家族論は、東アジアのキリスト教を社会学的あるいは思想的に論
   じる際の中心問題であるが、その場合、まずキリスト教の家族理解(子と親の関わり)を、そして何より
   も新約聖書における家族理解を解明することが要求されるのである。
   
17.日本キリスト教団出版局から刊行されつつある「日本の説教者」シリーズより。
   『海老名弾正』『植村正久』『中田重治』『山室軍兵』 2003
  
   いずれも、最後に適切な解説がつけられており、説教を通して、明治から昭和にかけて、日本のキリス
   ト教(プロテスタント)を指導した人物について学ぶことのできる好シリーズと言えよう。

16.Robert Eric Frybenberg (ed.)
   Christians and Missionaries in India. Cross-Cultural Communication since 1500
   Routledge  2003
   
   本書は、インドのキリスト教を、インドに存在する諸宗教の相互交流の中で論じた論文集である。お
   そらく、アジアのキリスト教がキリスト教一般に対して有する意味を論じる上で、インドのキリスト教は
   重要な位置を占めており、実証的な研究に立った本格的な思想研究が望まれる。本書のような研究
   の進展に期待したい。

15.鈴木範久監修・藤田豊編 『内村鑑三著作集・研究目録 CD−ROM付』 教文館  2003
   本書は、タイトルのように、内村鑑三の著作と、最近(2003年)までの研究文献を収録した目録であ
   り、内村研究の基礎資料といえるものである。とくに、CD−ROM版の方は、著作名、出典、巻頁、出
   版年、備考などの項目から検索できるようになっており、内村鑑三の思想の特定項目やその発展過
   程について、あるいは現在の内村研究の状況などについて知る上で、きわめて有用と思われる。

14.高橋昌郎 『明治のキリスト教』 吉川弘文館 2003
   本書は、開国・居留地伝道から始まった明治のキリスト教史を、多くの地域や教派の動向を視野に入
   れつつ、明治後期までたどった研究書である。初期のキリスト教が、日本各地に伝えられる際に、学
   校に語学などの教師として招聘された宣教師が赴任後に伝道を始めるパターン、居留地(横浜・東京・
   神戸など)でキリスト教に入信した者が自分の郷里で伝道するパターン、居留地の宣教師が別の地域
   に出張して伝道するパターンが存在していることの指摘や(64頁)、明治期においてハリストス正教会
   の宣教が盛んであったことについての記述、また植村と海老名のキリスト論論争の前後の状況の分析
   など、興味深い問題が、多くの資料を用いて、説得的に論じられている。

13.金文吉 『津田仙と朝鮮 朝鮮キリスト教受容と新農業政策』 世界思想社 2003
   本書は、日本と朝鮮の最初期のキリスト教の相互交流を、津田仙という人物を通して実証的に論じた研
   究書である。キリスト教との関連において津田仙を取り上げることは、これまでにない新しい研究の視点
   であり、しかもそれを日本と朝鮮の関係史として展開したことは、画期的な意味があるように思われる。
   これまでの金氏の研究成果がこのような形で公にされてことにより、日韓キリスト教の歴史的研究がさら
   に前進することを期待したい。 

12.李慶愛 『内村鑑三のキリスト教思想 贖罪論と終末論を中心として』 九州大学出版会  2003
   本書は、著者が九州大学に提出した博士学位論文に手を加えたものであり、内村についての本格的
   な研究書である。内村の思想形成を跡づけつつ(その中で、伝記的事項にも触れられている)、その中
   心に贖罪と終末(復活とキリスト再臨)を位置づけている点で、堅実な内村理解が展開されていると言
   えよう。もちろん、内村と自然科学(進化論など)との思想的な内的関わりや、聖書解釈論の展開など、
   さらに詳細な議論を要する問題も少なくないが、とくに、内村の再臨思想と海老名弾正や中田重治との
   比較などきわめて興味深い。

11.矢内原忠雄 『土曜学校講義 1〜10』 みすず書房
     1.『アウグスティヌス 神の国』、2.『アウグスティヌス 告白』、
     3.『アウグスティヌス ペラギウス論争』、4.『アウグスティヌス 三位一体論』、
     5.『ダンテ 神曲T』 、6.『ダンテ 神曲U』、7.『ダンテ 神曲V』、 
     8.『ミルトン 楽園喪失T』、9.『ミルトン 楽園喪失U』、
    10.『ミルトン 楽園喪失V』      

10.『近代日本キリスト教名著選集 第T期 キリスト教思想篇 全8巻 別冊解説』 日本文書センター   
                                                           2002
     1.植村正久 『真理一斑』、小崎弘道 『政教新論』
     2.金森通倫 『日本今ノ基督教並ニ将来ノ基督教』、横井時雄 『我邦の基督教問題』
     3.波多野培根 『真道指針』、内村鑑三 『求安録』
     4.山室軍平 『平民之福音』、松村介石 『総合的基督教』
     5.海老名弾正・植村正久 『基督論集』、海老名弾正 『基督教本義』
     6.新井奥邃 『読者読』、富永徳麿 『基督教神髄』
     7.内村鑑三 『基督再臨問題講演集』、富永徳麿 『基督再臨を排す』、
       畔上賢造 『基督再臨の希望』
     8.田村直臣 『児童中心のキリスト教』、高倉徳太郎 『福音的基督教』                

9.『小崎弘道全集 第1巻〜第6巻』(復刻発行) 日本文書センター 2000

8.同志社大学人文科学研究所編 『戦時下抵抗の研究 キリスト者・自由主義者の場合 TU』 
                                                みすず書房 1968 / 1969
     
7.同志社大学人文科学研究所編 『熊本バンド研究 日本プロテスタンティズムの一源流と展開』 
                                                 みすず書房 1997(1965) 

6.Joseph M. Kitagawa (ed.)
   The Religious Traditions of Asia. Religion, History and Culture, Routledge 2002
   
   アジアの諸地域(南・東南アジア、内陸アジア・チベット、東アジア)の諸宗教(キリスト教、仏教、イスラーム
   など)を扱った論文集。

 5.無教会史研究会編 『無教会史I 第一期 生成の時代』 『無教会史II 第二期 継承の時代』
                『無教会史III 第三期 結集の時代』 『無教会史IV 第四期 連帯の時代』
                 新教出版社
      無教会史研究会編の『無教会史』が第4巻で完結し、研究会も解散することになった。この無教会史
      の企画は、「起点から無教会的集団形成の流れの跡を追って、幾筋かに分かれるかもしれないが、と
      もかくも線にまでもってゆく、つまり各期を通して大観する無教会通史を作る」というものであり、ここ
      に、様々に分岐しつつ展開する運動体としての無教会を時間発展の相にもとに集約するという意欲的
      な試みを見いだすことができる。日本のキリスト教史に関心のある者にとって、この『無教会史』は、重
      要な基礎資料となるであろう。

 4.寺田勇文編 『東南アジアのキリスト教』 めこん 2002年
      編者によって東南アジアにおけるキリスト教の展開の歴史と国ごとの概況が説明されたのに続いて、
      フィリピン、ミャンマー(ビルマ)、中国、タイ、カンボジア、ベトナム、マレーシアなど各地のキリスト教の
      特徴ある姿が紹介されている。少数民族の問題やイスラームとの対話にも触れられており、類書がほ
      とんどない日本の研究状況において、貴重な論文集である。なお、編者によれば、本書は上智大学コ
      ミュニティ・カレッジでの連続講義(「東南アジアのキリスト教」)をもとにして企画されたとのことである。

 3.村井早苗 『日本史リブレット キリシタン禁制と民衆の宗教』 山川出版社 2002年
      キリシタン禁制を檀家制度の成立や民衆の宗教性との関わりでわかりやすく紹介している。 

 2.飯田剛史  『在日コリアンの宗教と祭り 民族と宗教の社会学』 世界思想社 2002年
      「在日」の宗教調査の基づく実証的かつ広範な研究。第11章「在日大韓基督教会における民族と人
      権」という章で、キリスト教にもまとまった論述がなされている。

 1.柳炳徳、安丸良夫他編 『宗教から東アジアの近代を問う−日韓の対話を通して』 ペリカン社 2002年
      1993年から98年まで6回にわたる日韓宗教研究者交流シンポジウムの成果論文集。わたくしが現
      在企画中の共同研究にとっても参考になる注目すべき論文集です。とくに、「第2部 近代との出会
      い」の諸論文が興味深い。
 

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