日本におけるティリッヒ研究                       2006/5/2

 <内容>
   A.日本におけるティリッヒ研究の歩みと現状
   B.ティリッヒに関する研究書(単著・論文) 
         「日本におけるティリッヒ研究・文献表」    
   C.Web上のティリッヒ研究



A.日本におけるティリッヒ研究の歩みと現状

 日本のティリッヒ研究が、本格的に開始されたのは、おそらく第二次世界大戦後のことであり、当初、ティリッヒについては、アメリカのユニオン神学校などで活躍していた組織神学者あるいは宗教哲学者というイメージが中心であったように思われる。とくに、ティリッヒ研究にとって重要な出来事としては、1960年のティリッヒの来日(ティリッヒの記念講演集『文化と宗教』岩波書店 1962年)と、1978年を中心とした『ティリッヒ著作集』(全10巻、別冊3巻。白水社)の刊行が挙げられる。この間のティリッヒ研究をリードしてきた研究者としては、後に挙げる東京神学大学関係の研究者の他に、茂洋、熊谷一綱、藤倉恒雄、大島末男の各氏を挙げることが可能であり、これら諸氏を通して、日本におけるティリッヒ研究は学問的な水準において推進されることになったと言えよう。現在、日本のティリッヒ研究では、20世紀後半の研究をリードしてきた世代に続き、いわば第二世代の研究者が、次々に刊行される新資料をも視野に入れつつ、研究を進めつつある。

 しかし、ティリッヒが日本に紹介されたのは、決して第二次世界大戦後のことではない。厳密な事実関係については、今後の調査に待たねばならないが、土居真俊は、「筆者が初めてティリッヒ教授の著書に接したのは、確か昭和九年のことであったと記憶する。当時、筆者は同志社大学神学部の学生であって、有賀鉄太郎教授(現京都大学文学部長)より、Die sozialistische Entscheidungの講読を受け、その明快な叙述と革命的情熱とに魅せられたものである。」(土居真俊 『ティリッヒ』日本基督教団出版部 1960年 239頁)と述べている。この『社会主義的決断』が出版されたのは1933年であるから、同志社大学ではその翌年には、有賀鐵太郎によって、ティリッヒのこの主著が取り上げられていたことになる。おそらく、これは日本においてティリッヒが本格的に紹介された最初期に属するものであり、アメリカにおけるティリッヒ紹介と比べても決して遅くないと言える。その後、京都大学では、ティリッヒについての専門研究書という形は取らなかったが、有賀鐵太郎(たとえば、『キリスト教思想における存在論の問題』の第三部第四章「現代神学における存在論的一断面」では、ティリッヒが本格的に論じられている)、武藤一雄(ティリッヒついての論究している著者や論文はかなりの数にのぼる)、松村克巳(『根源的論理の探求−アナロギア・イマギニスの提唱−』の第一部はティリッヒ論を含んでいる。また、関西学院大学神学部に移ってからも、継続してティリッヒを演習などで取り上げていたと言われる)などのキリスト教学専修の教官によって、ティリッヒは継続的に注目されてきており、現在の京都大学におけるティリッヒ研究の基盤をなしている。また、こうした京都におけるティリッヒへの注目がキリスト教学専修の範囲を超えて広がっていることは、西田幾多郎が最晩年の論考「場所的論理と宗教的世界観」(1945)の最後の部分でティリッヒの言及していることにも現れており(1926年の『カイロスとロゴス』への言及)、実際、日本のティリッヒ研究の特徴は、キリスト教思想研究の範囲を超えて、仏教(Bに挙げた藤本浄彦の著書など)や神道の研究者においてもティリッヒへの取り組みが見られることに認められるであろう。

 京都とならぶ第二次世界大戦以前のティリッヒへの取り組みとしては、現在の東京神学大学に関連した研究者を挙げることができるであろう。東京神学大学と言えば、日本におけるバルト研究の中心であり、ティリッヒとは立場を異にしているとの印象が強いかもしれない。しかし、たとえば、桑田秀延『基督教神学概論』(1941年)では、1920年代後半のティリッヒの終末論を取り上げ、「彼の終末論は稍々独自なるものであり、他の人々のそれと多少相違してはゐるが、現代終末論の特色の一面をよく示してゐると思ふ。」(527)と評している。これからもわかるように、ティリッヒは決して無視されてきたわけではない。これは、佐藤敏夫、大木英夫、古屋安雄、近藤勝彦らが、多くの著者や論文でティリッヒに関する詳細な議論を展開していることに結実しており、このティリッヒ研究の伝統はさらに次の世代にも受け継がれている。しかし、この伝統におけるティリッヒ研究は、組織神学者あるいは宗教哲学者ティリッヒへの、それぞれの論者自身の神学的立場からの批判的論究が中心であると言える。


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B.ティリッヒに関する研究書(単著・論文集)

 以下に挙げるのは、現在、芦名研究室に所蔵の研究文献である。もちろん、網羅的なものではないが、日本におけるティリッヒに関する専門研究としては、主要な文献(モノグラフ、論文集、専門雑誌)と言えよう。なお、ティリッヒに一定以上の頁を割いている著作となるとここで挙げたもの以外にかなりの数にのぼることにが、現時点のリストからは省略した。また、日本語で書かれた雑誌論文や学位論文などのリストアップは、今後の課題となるが、このサイトをご覧になった方より情報提供をいただければ幸いである。
    なお、より詳細な文献表は、「日本におけるティリッヒ研究・文献表」を参照。

1.土居真俊 『ティリッヒ』日本基督教団出版局 1960
2.茂 洋  『ティリッヒ組織神学の構造』新教出版社 1971
             『ティリッヒの人間理解』新教出版社 1986
3.藤倉恒雄 『ティリッヒの「組織神学」研究』新教出版社 1988
       『ティリッヒの神と諸宗教』新教出版社 1992
4.大島末男 『ティリッヒ』清水書院 1997
5.藤本浄彦 『実存的宗教論の研究』平楽寺書店 1986
6.芦名定道 『ティリッヒと現代宗教論』北樹出版 1994
    
     『ティリッヒと弁証神学の挑戦』創文社 1995

7.組織神学研究所編 『パウル・ティリッヒ研究』聖学院大学出版会 1999
                   <執筆者>
                            大木英夫、藤倉恒雄、茂洋、大島末男、高橋義文、清水正、
             
      朴憲郁、芦名定道、森本あんり、深井智朗、相澤一
            『パウル・ティリッヒ研究2』聖学院大学出版会 2000
                                <執筆者>
                     
         ラングドン・ギルキー、古屋安雄、清水正、大木英夫、
                      茂洋、
芦名定道、朴憲郁、深井智朗

8.現代キリスト教思想研究会 『ティリッヒ研究』創刊号(2000/3)〜第9号(2005/3)
    <執筆者>

                           芦名定道、今井尚生、川桐信彦、近藤剛、高橋良一、
         前川佳徳、岩城 聡、加藤未知子、鬼頭葉子、石川明人、與賀田光嗣

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C.Web上のティリッヒ研究

   1.ティリッヒ研究会(現代キリスト教思想研究会・京都大学キリスト教学)
   2.ティリッヒに関する論文・エッセイ
     ・野呂芳男(野呂芳男ホームページ・Archive) 
          「ティリッヒの死」(『死と終末論』創文社 1977年)
          「パウル・ティリッヒにおける宗教と芸術」(『聖書と教会』1986年8月号、2-4頁)


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