レポートの書き方

 以下のような、レポート課題を題材にして、具体的にレポートの書き方を考えてみよう。
この頁をご覧いただいた方は、このレポートの書き方を自分流にアレンジして、レポート作成に役立ててください。


<夏期レポート課題>

 1) 月 日( )の授業にて提出
 2)400字詰め原稿用紙5枚相当以上(ワープロ可)
 3)テーマ(三題から一題選択)
  1.祭りのフィールドワーク研究(故郷の祭り、近畿の祭りなど)
  2.文献レポート(教科書、講義プリントの文献表から適当な文献を選んでレポート。
    これ以外の文献を使う場合はその文献をレポートする意義を説明すること)

  3.講義で示した理論の応用(神話や儀礼を具体的に分析する)
 4)レポートの手順(とくに文献レポートの場合)
     ・文献の選択・予備的読解

         →レポート作成計画
         →読解・分析
         →レポート作成
    ・問題・方法:問題提起 
      内容要約:全体→分析する部分

     分析・考察
     まとめ・結論
      文献表と注の作成
 5)講義プリントの「文献表」


 ・芦名定道 『ティリッヒと現代宗教論』(北樹出版)
         『宗教学のエッセンス』(北樹出版)
         「キリスト教信仰と宗教言語」
                     (『哲学研究』第568号 1999年 京都哲学会)
 ・ティリッヒ 『信仰の本質と動態』(新教出版社)
        「聖書の宗教と存在の問題」(『ティリッヒ著作集 第四巻』 白水社)
         「諸民族の生活におけるユートピアの政治的意義」
                      (『キリストと歴史』 新教出版社)
 ・シモーヌ・ヴェーユ 『重力と恩寵』(講談社文庫)
              「神への愛と不幸」(『現代キリスト教叢書6』白水社)
 ・シュライエルマッハー 『宗教論』(筑摩叢書)
 ・フッサール 『現象学の理念』(みすず書房)
 ・リクール 『他者のような自己自身』(法政大学出版局)
        「世俗化の解釈学−信仰、イデオロギー、ユートピア」
                       (『解釈の革新』白水社)
 ・バルト 『教会教義学』(新教出版社)
 ・ルーマン 『宗教論 現代社会における宗教の可能性』(法政大学出版局)
 ・金子晴勇編  『人間学 その歴史と射程』(創文社)
 ・金子晴勇  『ルターの宗教思想』(日本基督教団出版局)
 ・ゲーレン  『人間−その本性および世界における人間の地位』
                            (法政大学出版局)
 ・カッシーラー 『人間−この象徴を操る者』(岩波書店)
 ・シェーラー 『宇宙における人間の地位』(白水社 著作集第13巻)
 ・エルンスト・ブロッホ 『希望の原理 全三巻』 白水社
 ・モルトマン 『希望の神学』 新教出版社
 ・ボーグ 『イエス・ルネサンス』 教文館
 ・クロッサン 『イエス あるユダヤ人貧農の革命的生涯』 新教出版社
 ・マックス・ウェーバー 『プロテスタントの倫理と資本主義の精神』
                                 (岩波文庫)
 ・梅津順一 『近代経済人の宗教的起源』(みすず書房)
 ・リンゼイ 『民主主義の本質』(未来社)
        『自由の精神』(〃)
        『デモクラシーにおける討論の誕生 ピューリタン革命における
        パトニ
ー討論』 (聖学院大学出版会)
 ・大木英夫 『ピューリタン』(中公新書)
         『新しい共同体の倫理学 基礎論 上下』(教文館)
 ・浜林正夫 『イギリス宗教史』(大月書店)
 ・山田園子 『イギリス革命の宗教思想』(御茶の水書房)

 
<注意点・心構え>

 まず、大学の授業においてレポートを提出する際に留意する必要があるのは、レポートとは、与えられた課題に対して、学問的手続きによる解明が試み、その結果得られた知見(解明のプロセスを含む)についての報告書であって、いわゆる「感想文」とはまったく異なるという点である。つまり、一定の文献についての印象(おもしろい、ためになった、賛成できない、無意味であった、などなど)をエッセイ風にまとめた文章と、レポートとは、まったく別のジャンルに属している。したがって、レポート作成は一定の手順や方法論によって進められるべき作業であり、レポート添削を含めた適切な指導−残念なことに、現在の多くの大学ではこの指導のために十分な時間を取ることができないのが、実態かも知れない−のもとで身につけられるべきものと言える。

<レポート作成の手順>

以下、上記の「文献表」に示された文献資料に基づいて、レポートを作成する場合を例に、説明を行うことにしたい。
 (1)レポートは、講義や演習の内容に関連して課せられたテーマについて作成されるものであるから、レポート作成者には、講義や演習の内容と、その内容と課題テーマとの関連について、十分に理解していることが、求められる。この点について曖昧な場合は、レポート作成に先立って、講義内容の復習が必要になる。
 (2)課題に具体的に取り組むに先立って、次の予備的作業を行わねばならない。「西洋近代の成立とキリスト教との関わりについて、具体的な思想家を手掛かりにして論じよ。その際に、政治、経済、科学、教育といった個々の問題領域のいずれかを、取り上げること。」という課題について、レポートを作成する場合を考えてみよう。講義や演習で関連文献として挙げられた諸文献は、レポートに取り組む際に、第一に参照すべきものであるが、レポート作成者は、どの諸文献を使うかを選択する必要がある(この選択は、(1)の確認を通して得られた見通しに基づく)。たとえば、ルターの宗教改革と西洋近代との関わりを論じるという問題意識がある場合には、金子晴勇著の『ルターの宗教思想』を主な資料としてレポートを作成するという見通しが立てられるかも知れない。文献が選択されたならば、ともかくも、一度、通読してみることになる。
 (3)通読に基づいた研究計画(レポート作成計画)の作成。ここで、必要なのは、レポート課題から、自分が実際に扱う問題を明確な仕方で取り出すこと、つまり、自分が具体的に論じる問題設定を明確化することである。レポート課題が、かなり大きな一般的な設問である場合、レポート報告者は、それを具体的な問題設定へとアレンジしなければならない。次に、その問題設定によって具体化された課題に取り組むための手順・計画を立てる。すなわち、選択された文献のその部分(部、章、節など)をどのような仕方で取り上げ、どんな観点から分析を行うのか、主として取り上げる文献と補足的文献との区別と関連づけをどう行うのか、などについて、一定の見通しのもとで、レポート作成は開始されねばならない。先の例に即して説明するならば、たとえば、金子晴勇著『ルターの宗教思想』の第三章「信仰義認」にしたがって、ルターの宗教改革の基本精神を明確化し、この基本精神と近代世界との関わりを見るために、第七章「良心の三段階」と第八章「近代人の運命と信仰」を取り上げる、というレポート作成の基本的方向づけと、そして、文献表に挙げられていないが、金子氏の最近の著書である、『近代人の宿命とキリスト教世俗化の人間学的考察』(聖学院大学出版会)を補足的文献として参照するという方針を立てることができるであろう。以上のような予備的作業は、レポートの水準を左右する重要な作業であって、試行錯誤を経て進められるレポート作成にとって、不可欠のものなのである。
 (4)予備的考察に基づく、分析的読解の実施。いよいよレポートの基礎になる文献を詳細に分析的に読解する段階になるが、留意すべき点は、文献の著者の議論の道筋全体を把握すること、どんな前提と方法によっていかなる結論に至っているかを明確化すること、そして、著者の論述の不十分な点・不明瞭な点などを明らかにすることである。こうした分析的読解は、大学では通常「演習」と言われる授業で身につけられるべきものであるが、レポート作成者は、メモの取り方(カードの利用、データベース化、図表化など)や未知の事項の調べ方(各種の事典・辞典や資料集などの利用の仕方、図書館の文献目録やインターネットでの検索の仕方)などに関して、自分のスタイルを確立することが望まれる。以上の文献の読解に続いて、さらに調査し考察を加えるべきポイントをまとめ、それぞれについて、必要な調査・考察を行う。
 (5)以上の予備的考察、分析的読解が完了すると、いよいよ、それまでの分析・考察を整理し、最初に立てた問いに対する結論をまとめ、レポートを作成する段階になる(最終段階)。

次に、レポートの構成の具体例を示しておきたい。

<レポートの内容・一例として>

 T 問題提起(問題・方法)
 U 文献資料の内容の要約   
 V 分析・考察   
 W まとめ・結論   
 X 文献表と注の作成   

T:問題提起(問題・方法)

 レポートの書き出しは、与えられたテーマをどのように具体的に捉え論じるかという、レポート作成者自身の問題設定を明確に示すことから始まる。この問題設定の明確化は、講義や演習の内容との関わりにおいてなされることになるが、その際とくに、自分が行った問題設定の持つ意義を明らかにすることが重要である。次に、こうして明示された問題に対して、どのような視点から、どのような方法論によってアプローチするのか、そのために、具体的にいかなるステップで議論を展開するのかという、レポートの方法論と構成のアウトラインの説明がなされる。とくに、文献資料の読解を主な方法にする場合には、取り上げられる文献の選択理由、文献の内容を説明し、また文献の一部に議論を限定する場合には、それがどの部分であり、その部分に議論を限定する理由を述べることが必要になる。また複数の文献を取り上げる場合には、それらの諸文献の関連性や、取り上げ方の区別(どれを中心にし、どれを補足的に扱うかなど)について、方針を示すことが要求される。

U:文献資料の内容の要約

 文献資料を用いる場合に留意しなければならないことは、文献の著者の見解と、それを引用し分析するレポート作成者の見解との区別が、読み手にとって明確にわかるような仕方で、レポートすることである。それには、引用文を括弧に入れたり、文献の頁を示したり、あるいは、「著者によれば、...」「この点について、レポート作成者は次のように考える」などの表現を適宜用いるなどの工夫が必要になるが、場合によっては、まず、文献からの引用を含めた、文献内容の要約を、分析や考察に先立って、一括して行っておくことも、考えられるであろう。なお、文献の一部を扱う場合でも、文献全体の構成と、その中での扱われる部分の位置づけを、説明しておくことが望ましい。

V:分析・考察

 Tで示した問いと、Uで要約した文献資料の内容とに基づいて、資料の内容の批判的分析が行われる。ここで言う「批判的分析」とは、文献の著者の見解を否定するという意味に限定されるのではなく、むしろ、著者の議論の前提・視点を明確化し(これは、著者自身が明確に示している場合もあるし、著者の議論が暗黙のうちに前提している場合もある)、議論の論理的展開を整理しつつ、議論の飛躍や矛盾に留意しながら、著者の示す結論がどのような経緯で導き出されたかを解明する、ということを意味している。このような解明を通して、レポート作成者は、自らの立てた問題の解明のために、文献資料を客観的に用いすることが可能になるのである。以上の批判的分析に基づいて、レポート作成者は、問いの解明に向けて、考察を進めてゆくのである。

W:まとめ・結論

 Vの分析・考察をまとめつつ(たとえば、いくつかの命題に整理する)、レポートにおいて行った分析・考察の範囲で、最初に立てた問いが、どのような解決をみたのかという結論が示される。もちろん、最初の問いが完全に解明されずにとどまった場合には、どの範囲まで明らかになり、残された問題が何であり、今後さらなる研究がいかなる仕方でなされるべきなのかについて展望を示すことが、必要になる。こうして、レポートは締めくくられる。

X:文献表と注

 レポートは、レポート作成者の主観的な考えの単なる表明ではなく、それを読む者が客観的に議論を確認し、評価できるものでなければならない。そのために、最低必要なことは、使用し参照する文献(著者名、題名、発行所、発行年)を一覧表に整理して示し、また、引用頁や補足説明(議論の展開上本論には入れないが、その議論を理解するのに必要な関連情報。たとえば、その事項に関する研究状況の解説など)について注を付けることである。雑誌や新聞記事、写真などの関連資料集を、必要に応じて添付することも考えられるであろう。

                     
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